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ファッション小売業界で採用相次ぐChief Transformation Officerの役割とは【第18回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2019年4月8日

ECの強化で盛り返しを図るNeiman Markus

 ファッション市場で厳しい状況が続くのが、従来型百貨店のファッション売り場である。たとえば、1907年に米テキサス州ダラスで創業し、全米に40店舗以上を展開する高級百貨店のNeiman Marcusは、2016年頃より業績が悪化し、ビジネス課題が山積みである。原因は、消費者が進化し、これまで同社が取り組んできたファッションシステムが通用しなくなったためである。

 同社の創業当初のキャッチフレーズは「品質と最高の価値を売る店」だった。しかし、デジタルボルテックの時代に合わせるためには、Neiman Marcusもビジネスモデルのアップデートが急務だった。そして2017年10月、「デジタル・ファースト戦略」を発表し、まずは「NMG ONE」という全店一括在庫管理システムを導入した。

 ECサイトの上顧客に向けては、完全招待制の「NMVPプログラム」を投入する。コンシェルジュがオンラインでスタイリングをし、同社のECサイトへ誘導する代わりに、メールベースで商品の購入や発送などができるサービスや、新製品をいち早く入手できる機会を提供した。「デジタルスタイリスト」と呼ぶ専門職を配備し、カスタマーにスタイリングの提案やイベント案内など、個々人に最適化したサービスを提供している。

 ソーシャルメディアやスマートフォン用アプリケーションなどを駆使したデジタル戦略の成果として、同社売上高の約3分の1は、オンラインでの売り上げになった。従来型の店舗販売とオンライン販売を同時に実行する戦略は、Nieman Marcusのように多数の大規模店舗を持つ従来型のファッション小売業には、有利に働いているようだ。

 さらには研究機能「Digital Innovation Lab」を保有し、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)や、よりパーソナル化を図ったサービスの開発など、イノベーションに対する取り組みにも熱心である。

 そして2018年11月には、Chief Transformation Officer(CTO)をコンサルティング会社のBoston Consulting Groupから迎え入れた。同時にChief Digital Officer(CDO)を任命するなど、自社のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させようとしている。

 厳しい状況に置かれているNieman Marcusではあるが、市場から姿を消すのではなく、自らトランスフォーメーションし盛り返しに全力を傾けている。

J.C.PennyもChief Transformation Officerを採用

 米国の大手百貨チェーンであるJ.C.Pennyも売り上げの低調に苦しんでいる小売業者である。ロイヤリティの高いカスタマーをターゲットに、さまざまな売り上げ向上施策を打ち出している。

 たとえば、「リテールテイメント」と呼ぶリテールとエンタテインメントを融合させた特別な店舗の催しを開催している。また、ソーシャルネットワークで影響力のある人を集めて洋服やヘアメイクサービスを提供したり、キャリア女性向けのスタイリングワークショップを開催しビジネスに最適な洋服やヘアメイクをアドバイスしたりもしている。

 さらに、J.C.Pennyでしか手に入らないPB(プライベートブランド)商品の開発にも注力する。2019年には全商品の最大70%がPBになる予定だ。オムニチャネル戦略も2017年から推進し、店舗、スタッフ、在庫、デジタルプラットフォーム、サプライチェーンなどのリソースを集結し、店舗の戦略的価値を上昇させる戦略を採っている(図2)。2019年1月には、CTOをコンサルティング会社のMcKinsey & Companyから迎え入れた。

図2:オムニチャネルで顧客を囲い込む既存小売業

 Neiman MarcusやJ.C.Pennyに見られるように、伝統的な小売業はCTOを外部から採用することで、自社のDXを加速し、消費者のロイヤリティを高める戦略を進めている。実店舗の強みとデジタル化により、Amazon.comなどでは手に入らないサービスの提供によって生き残りを賭ける。