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ファッション小売業界で採用相次ぐChief Transformation Officerの役割とは【第18回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2019年4月8日

Chief Transformation Officerがフォーカスする8つのタスク

 変化のスピードが速いデジタルボルテックスの世界においては、各個人のパフォーマンスを高めるだけでは十分ではない。組織、データ、そしてアセットなどのリソースをフルに活用できなければ、デジタルボルテックスの世界で起こる変化への適応は難しい。ましてや先を見越した変化はできない。

 米シスコシステムズとスイスのビジネススクールであるIMDが共同で設立した「Global Center for Digital Business Transformation(DBTセンター)」が1000人を超えるエグゼクティブやビジネスリーダーを対象に実施した調査において、過去5 年間に自社のリソース活用にどれほどの困難さを伴ったのかを聞いたところ、80%弱が「リソース活用が困難だった」と回答している(図3)。

図3:過去5年間、自社のリソース活用は、どうだったか?

 同調査からは、リソースの流動化とリソース同士のつながりを育むためには、CTOの役割が非常に重要になると考えられている。そこでDBTセンターは、CTOが取り組むべきタスクを、次の8つに整理した(図4)。

図4:Chief Transformation Officerが取組むべき8つのタスク

タスク1:カスタマージャーニーマッピング

 カスタマージャーニーを分析し、カスタマーとの新たなタッチポイントを発見する。

タスク2:ビジネスモデルデザイン

 ディスラプターがどのようにカスタマーバリューを創造しているのかといった競合分析と、カスタマーが何を期待するのか、何にお金を払うのかといった洞察を深める。

タスク3:ビジネスアーキテクチャ

 個人、部門など社内のリソースと、その関係性を把握し、変化が必要な際に、必要なリソースを上手くオーケストレートする。

タスク4:能力評価

 組織内のリソースの対応力を評価し、ギャップを特定する。そのギャップを埋めるための投資を優先する。

タスク5:コミュニケーションとトレーニング

 なぜトランスフォーメーションする必要があるのか説得力のあるストーリーを創り、組織のあらゆる階層のステークホルダーを教育する。

タスク6:インキュベーションとプラットフォームの拡張

 プラットフォームを作り拡張する。第16回で紹介したスイスのABB社が取り組むデジタルソリューションプラットフォーム「Ability」が好例だ。

タスク7:社内ベンチャーへの投資

 社内ベンチャー投資家的な役割を担い、組織横断的な取り組みを促進する。

タスク8:アジャイルな働き方

 トランスフォーメーションを加速するアジャイルな働き方を推進し、実験的な試みや継続的な学びを企業カルチャーとして醸成する。

 これらのタスクに関しては、『Orchestrating Transformation』(英語版を2019年2月に出版)で詳細に解説している。ご興味のある方は、ご覧いただければ幸いである。

今井 俊宏(いまい・としひろ)

シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長。シスコにおいて、2012年10月に「IoTインキュベーションラボ」を立ち上げ、2014年11月には「IoEイノベーションセンター」を設立。現在は、シスコが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発に従事する。フォグコンピューティングを推進する「OpenFog Consortium」では、日本地区委員会のメンバーとしてTech Co-seatを担当。著書に『Internet of Everythingの衝撃』(インプレスR&D)などがある。