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次なる主戦場はサブスクリプション型ビデオストリーミングエコノミーに【第20回】

今井 俊宏(シスコシステムズ イノベーションセンター センター長)
2019年6月10日

サブスクリブション型ストリーミングでAppleとDisneyが台風の目に

 Walmartの動きにみられるように、デジタルプラットフォーマーの視線の先にあるのがサブスクリプション型のビデオストリーミングサービスである(図2)。同分野でトップを走るのは、2007年にサービスを開始し、今や世界で約1億5000万人もの会員を獲得している米Netflixだ(第4回参照)。

図2:サブスクリプション型ビデオストリーミングサービス

 サブスクリプションとは、継続課金によりカスタマーと長期にわたって関係を築くことを重視したビジネスモデルである。所有するよりも必要なものを必要な時に利用できることが、より望まれるようになっており、サブスクリプション型サービスが拡大している。

 サブスクリプション型サービスでは、契約したカスタマーが、どれだけサービスを継続して利用してもらえるかが重要になる。そのため、カスタマーの要望を常に把握し(ハイパーアウェアネス)、迅速なサービス改善を継続する必要がある。身近なサブスクリプション型サービスはこれまで、第3回で述べた音楽ストリーミングの「Spotify」や「Apple Music」だった。しかし今後は、ビデオ領域でのサブスクリプション型サービスの競争が一層激しくなりそうだ。

 仕掛けるのは米Apple。2019年3月にストリーミングサービス「Apple TV+」を開始すると発表した。独自に制作した多くのプログラムをApple TV+で視聴可能にする。さらに2019年4月には、Walt Disneyも2019年11月12日から独自の配信サービス「Disney+」を始めると発表した。これまでNetflixやHuluなどで配信されていたDisney作品の提供は終了し、Disney+のみでの配信する予定である。

 Walt Disneyは、Disneyのほかに「Pixar」「Star Wars(Lucusfilm)」「Marvel」「National Geographic」といった5つのレーベルを保有する。21st Century Foxの事業を買収したことでHuluをも傘下に収めた。今後Huluは、全世界で視聴できるようにする計画だ。

 AppleとDisneyが、オリジナルコンテンツとD2C(Direct to Consumer:直販)モデルで攻勢に出たことで、一歩先を行くNetflixも安泰ではいられない。個人が所有するデジタルデバイスのビデオ視聴時間は限られているだけに、デジタルプラットフォーマー間の競争は、一層激しくなるだろう。

2022年には全IPトラフィックの82%がビデオに

 AppleやDisneyの参入で、サブスクリプション型ビデオストリーミングサービス全体の認知度が向上し、市場が活性化するのは間違いないだろう。一方で、1つのサービスに加入しただけでは、すべてのコンテンツを視聴できなくなることがカスタマーにとっては問題になるかもしれない。

 また似た様なサブスクリプション型ビデオストリーミングサービスが乱立すると、カスタマーはサブスクリプション自体に疲れを感じ始めるかもしれない。そうなると、昨日までのライバルが協力し、より大きなコンテンツプラットフォームを形成する可能性も出てきそうである。

 いずれにしても勝者は、拡張性があり、利便性が高く、リーズナブルな価格を提供できるデジタルプラットフォーマーであろう。

 なお米シスコシステムズは2018年11月、2022年までのインターネットトラフィック予測をまとめた『Cisco Visual Networking Index(VNI): Forecast and Trends, 2017 - 2022』を発表している(図3)。

図3:『Cisco Visual Networking Index(VNI): Forecast and Trends, 2017 - 2022』

 同レポートによれば、ビデオストリーミングサービスの継続拡大が見込まれることから、IPトラフィック全体に占めるビデオトラフィックの割合は、2017年から2022年にかけて4倍に増加。IPトラフィック全体に占める割合も75%から82%に上昇すると予想している。

今井 俊宏(いまい・としひろ)

シスコシステムズ合同会社イノベーションセンター センター長。シスコにおいて、2012年10月に「IoTインキュベーションラボ」を立ち上げ、2014年11月には「IoEイノベーションセンター」を設立。現在は、シスコが世界各国で展開するイノベーションセンターの東京サイトのセンター長として、顧客とのイノベーション創出やエコパートナーとのソリューション開発に従事する。フォグコンピューティングを推進する「OpenFog Consortium」では、日本地区委員会のメンバーとしてTech Co-seatを担当。著書に『Internet of Everythingの衝撃』(インプレスR&D)などがある。