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- 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか
デジタルによるスマートシティを目指す会津若松市【第1回】
〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜
現在、スマートシティプロジェクトに参加するため首都圏からの交流人口は増加しており、市内のビジネスホテルの稼働率は満室に近い状況が続いているそうだ。この動きは、都心から会津若松市までの移動時間が片道約3時間という、一見ビジネス上は便利とは言いきれない場所にもかかわらず起こっていることも記しておきたい。
会津若松市のスマートシティ化を語るとき、研究開発と人材育成という重要な役割を担っているのが市内にある会津大学である。1993年、日本初のコンピューター理工学専門の公立大学として開校し、コンピューターサイエンス領域で100人の研究者を要し、卒業生の就職率は開学以来ほぼ100%。文部科学省からスーパーグローバル大学(全37校)の1つに指定されているほか、『世界大学ランキング日本版』でも23位に入っている。
2012年からは、アクセンチュアの寄附講座としてデータアナリティクス人材育成の取り組みが始まり、2015年からは地方創生総合計画として、それを拡大。2015年度は会津大学生30人、社会人20人を育成した。これら人材育成の取り組み、その人材がどのようにプロジェクト推進に関わっているかについても今後、詳細を紹介したい。
プロジェクトは今も現在進行形で日々動いている
こうした会津若松市における取り組みは、地方創生の実証モデルとして、政府も注目している。2015年1月には改正地域再生法に基づく地域再生計画の第1号として、会津若松市の「アナリティクス産業の集積による地域活力再生計画」が内閣府から認定された。経済産業省における「地域未来投資推進法」に関する説明資料においても、地域経済をけん引するモデル事業として、会津若松市がICT産業を集積し、かつICTを活用した実証実験フィールドになっていると紹介されている(関連資料『地域未来投資推進法について』、経済産業省)
ほかにも会津若松市は、2016年7月に経産省の「地方版IoT推進ラボ」において第1弾選定地域として採択された。総務省の「地域IoT実装推進タスクフォース」をきっかけに立ち上がった「地域IoT官民ネット」の発起人の一人には会津若松市の室井市長が名を連ねている。地域IoT官民ネットは、IoT推進に意欲的な自治体(100団体程度)とIoTビジネスの地方展開に熱心な民間企業などが参加するネットワークである。
会津若松市がデジタル化に舵を切って以来、市民生活や地域産業の多岐にわたってICTが活用されており、今も複数のプロジェクトが日々動いている。アクセンチュアとしても引き続き、スマートシティ計画を支援させていただくとともに、デジタルトランスフォーメーションのモデルケースとして完成させたいと考えている。
アクセンチュアが日本でビジネスを開始して55年になる。会津若松市への支援は、日本が直面する、少子高齢化や、社会保障費の拡大、東京一極集中といった重要課題をデジタルテクノロジーを活用して解決し、日本の未来のために貢献したい、という思いがベースにある。ここでの取り組みは、地方創生のモデルケースとして日本各地のスマート化に寄与できるものと考える。
次回以降、会津若松市におけるスマートシティの取り組みについて、主に会津若松市と、会津大学、アクセンチュアが産官学連携のもとに進めてきたプロジェクトを中心に、市民生活・まちづくりの多岐にわたる取り組みを、これまでの経緯や最新動向に沿ってつまびらかにしたい。
さらに、今も現在進行形で進むプロジェクトの新たな挑戦や、キーパーソンが時々に何を考えているのかなどにも触れながら、会津若松流地方創生のすべてをお伝えしていきたい。会津若松市と同様の課題を抱える、全国の地方都市にとってのヒントになれば幸いである。
中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)
アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。
現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。