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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松市が進めるデジタル人材育成と新たな産業誘致政策【第4回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年2月19日

データが、それぞれの組織において重要な経営資源になったことは前回述べた。ただし、そのデータを分析し戦略に活かすための人材、すなわち「アナリティクス人材」や「データサイエンティスト」は国内で25万人が不足しているとされる。会津若松市がスマートシティの戦略を立案した後に、まず着手したのが、前回に詳述した「オープンデータ戦略」と「アナリティクス人材の育成事業」である。

 AI(人工知能)やロボティクス、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)などの活用が進むなかで"STEM人材"の需要が伸びている。STEMとは、「科学(Science)」「技術(Technology)」「工学(Engineering)」「数学(Math)」という4分野の頭文字を取った造語だ。STEM人材にはアナリティクス人材やデータサイエンティストも含まれる。

 アクセンチュアは、さまざまな場面でSTEM人材の育成に取り組んでいる。次世代のIT人材とは「STEMスキルを活用し、ビジネスや地域社会などにイノベーションを起こす人材」と考えるからだ。すなわち、理工系の専門事業内に閉じることなく、社会課題や顧客ニーズを本質的にとらえたうえで、水平横断的に物事をつなげ、自主性や実行力といった課題解決力、およびコミュニケーション力も兼ね備えた人材である。

 会津若松市のスマートシティに向けた動きでは、データを活用した企業戦略の策定や新サービス開発、市民へのデジタルサービスの提供などの実現を目指している。だが、人材がいなければ、いくらIoT環境を整備し、データを収集してビッグデータ化しても、新たな価値は創造できない。また国内にアナリティクス人材が不足しているからといって、重要な経営資源を扱う人材を海外に頼るよりは、国内で育成していくほうが良いのではないだろうか。そうして私たちは、国内に新たな人材育成拠点を構築するしかないと判断したのである。

大学生を対象としたアナリティクス人材育成

 会津若松市内にある会津大学は、1993年コンピューターサイエンス専門の単科大学として開学した。アクセンチュアと会津大学は、(1)これまでの教育に加え、ソーシャルサイエンス、特にデータサイエンス分野を加えることで、デジタル時代に求められる人材を育成できるようになる、(2)STEM人材の育成が今後重要になる、の2つの方向性で合意。2012年4月にアナリティクス人材の育成講座をアクセンチュアの冠講座としてスタートさせた。

 当初は、10人程度のゼミを週1回90分の講座として実施した。2013年からは、3年生以上の約240人を対象にした講座も開始し、デジタル社会を想定した概論も提供した。2014年には、ソーシャルサイエンス分野では世界で最先端といわれる、エストニアのタリン工科大学を紹介し、連携を開始した。

図1:産学官連携による実践的なアナリティクス人材の育成講座

社会人を対象としたアナリティクス人材育成

 一方で、アクセンチュアは社会人向けのアナリティクス人材育成も各所で実施し始めた。IT業界ではクラウド化よる変革により、個別システムの統廃合が進んでいる。それによりアプリケーションやサービスの標準化が進み大規模開発が見直され始めていることと、本格的な国外へのオフショア化が進んでいることから、従来型のアプリケーション開発エンジニアには職種転換が求められている。アナリティクスを職種転換先にしようという考えである。

 会津大学が採択された「産学イノベーション推進事業(2013年経済産業省採択)」では、社会人向けアナリティクス人材育成講座を2年間にわたり開催した。この頃から「会津といえばアナリティクス」という声が聞こえてくるようになってきた。

 さらに、人材育成で見落とされがちな「学歴のダイバーシティ」にも着目した。地域には、さまざまな事情から高校卒業後すぐに就職する若者も多い。そこで、情報技術科を卒業した工業高校生をアクセンチュアの契約社員として雇用し、4年間にわたってアナリティクス業務のOJT(オンザジョブトレーニング)を繰り返す実証事業として人材育成に取り組んだ。きっかけは震災復興支援のための緊急雇用対策だったが、4年後に彼らは立派なアナリティクス人材に育ち、正社員としてプロジェクトで活躍している。

 ちなみに、彼らを含むアナリティクスチームが携わった佐賀県のデータ利活用プロジェクトは、国内外で高く評価されている(2016年総務大臣賞、2017年Fortune誌 Change The World ランキング24位)。