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- 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか
広域創生に向けたインバウンド戦略を支える会津のデジタルDMO【第6回】
〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜
各プロセスで提供されるサービスや注力しているポイントとして、(1)デジタルプロモーション、(2)デジタルトラベルサポート、(3)インバウンド・データアナリティクスについて解説しよう。
(1)デジタルプロモーション
東京や京都、富士山など、世界的にも有名な都市や地域の情報はインターネット上にあふれている。ところが、地方の観光都市の情報は限定的である。2015年に実施した会津地域の世界における認知度調査では、NHKの大河ドラマ『八重の桜』」が放映されていた台湾を除いては、認知度はゼロに近い状況だった。
そもそも会津地域では、世界に向けた情報発信に対して積極的には取り組んでいなかった。そうしたこともあり、筆者自身も赴任当時は、会津の市街地や旅館街で外国人観光客を見かけることはほとんどなかった。しかし逆に言えば、伸びしろが十分にあるということであり、徹底したプロモーションさえ実施すれば、大きな成果を得られることもわかっていた。
そこで、次の3点をプロモーションの基本方針として打ち出した。
基本方針1:ターゲットやコンセプトポジションを明確化する
観光コンテンツの策定で重要なことは「誰に向けて発信するのか?」という明確なターゲティングである。Visi+Aizuのプロジェクトチームは、会津地域の観光資源である「自然」「歴史」「温泉」「食」を総合的に分析し、会津を「日本の原風景を感じられる街」として位置付けた。
そのうえでターゲットを、東京と京都にはすでに旅行したことがある外国人観光客(リピーター)とし、会津は「3度目の日本」をコンセプトにしてプロモーションしていくことにした。この場合、初めて日本を訪れる観光客と、リピーターとで提供すべき情報の違いは何だろうか?
初めての訪日外国人に向けてはまず、「日本とは?」「日本人とは?」「日本の文化とは?」「食とは?」「温泉地での過ごし方って?」など、日本をゼロから体験してもらうためのさまざまな情報コンテンツが必要になる。しかしリピーターの場合は、日本の総合的な概要紹介は省略し、地域独自の特徴を深掘りした観光コンテンツでアピールできる。
たとえば京都を訪れたことがある外国人観光客は、日本の歴史や文化を体験済みだ。日本の文化に感銘し再び日本を訪れたいと思っているリピーターだと想定できるため、会津地域の深い歴史や魅力をダイレクトに伝える方が有効になる。このように、ターゲットを絞り優良顧客へとつなげていくための観光コンテンツの策定が、長期にわたるインバウンド戦略にとって重要なのだ。
基本方針2:各国民の嗜好性に合わせたコンテンツを整備・発信する
地方自治体の観光サイトを調査すると、国内観光客向けのWebページをそのまま外国語に翻訳したサイトが散見される。だが実際は、国ごとに観光における嗜好は異なっており、提供するコンテンツも、それぞれの嗜好に応じて掲載しなければ集客効果は得られない。
会津地域の郷土料理の1つに「馬刺し」がある。しかし、多くの中国人は、馬や生肉を食べる習慣がない。馬刺しの紹介コンテンツだけを見た中国人が、旅行先として会津を選択するだろうか?また日本人には会津観光の目玉の1つとして愛されている日本酒も、中国人には味が薄すぎると不評な場合もある。 一方で、味の濃い喜多方ラーメンは大好評だったりもする。
情報発信をする側が、どれほど素晴らしいと信じ、伝えたい、最高のおもてなしをしたいと考えていても、受けて側の嗜好に合わなければ喜ばれることはない。読者の中にも、海外旅行先で、食べ慣れなかったり口に合わなかったりと苦い経験を持つ人もいるだろう。国や文化が違えば嗜好の傾向は異なる。自分たちが好むものばかりを訪日外国人向けにプロモーションすることは、必ずしも正しいことではないのである。
Visi+Aizuでは、利用者の居住地ごとに、その嗜好に合わせて異なるコンテンツを自動で表示するようにしている。誰もが会津地域に興味を持って楽しんでもらいたいからだ。プロジェクトでは、利用者の楽しい想像を掻き立てるようなコンテンツマネージメントに注力している。
基本方針3:情報発信を各国のインフルエンサーに委ねる
Visi+Aizuプロジェクトでは、この3年間に世界各国からインフルエンサーを招き、自身が体験した会津地域の魅力を自国のファンやフォロワーに向けて発信してもらってきた。どんなに厳選したコンテンツを提供したとしても、自国の信頼できるインフルエンサーから発信される情報の影響力は比較にならないほど大きいということも認識しておく必要がある。
これらの基本方針に沿ったプロモーションを実施したことで会津は、世界中の人々に認知されるようになり、外国人観光客が前年比で140%以上に増加した(図3、参考資料『会津若松市の「V(ビジットジャパン)」案内所 外国人利用者数』)。