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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

広域創生に向けたインバウンド戦略を支える会津のデジタルDMO【第6回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年4月19日

(2)デジタルトラベルサポート

 図4に示すように、Visi+Aizuは大きく4つのトラベルサポートを実現している。

図4:「Visi+Aizu」が提供するトラベルサポート

サポート1:訪日外国人観光客の居住地と嗜好に合わせたコンテンツの提案

 Visi+Aizuでは、パーソナライゼーション(個人への最適化)を重要視し、さまざまなコンテンツと連携している。観光サイトにアクセスしてきた利用者の端末の言語設定を自動認識し、利用者の属性に応じて評価が高い観光スポットを紹介する。

サポート2:二次交通まで考慮したベストな旅行プランの提案

 居住地や嗜好、旅行の時期や季節といった情報を基に、さらに個別化された旅行プランを提案することが可能だ。訪日外国人が旅行中に困ることの多い二次交通の情報も詳しく解説し、「どの駅で何分発の電車に乗ったらよいのか」といった情報まで提供している。

サポート3:会津地域の魅力を伝える深いシナリオコンテンツ

 日本慣れしている外国人観光客に向けて、会津と他地域との違いをわかりやすく伝えるシナリオコンテンツを目指し、より深い情報を提供する。たとえば、合掌造りで有名な岐阜の白川郷と会津郡下郷町の大内宿は、いずれも多くの観光客に人気がある。だが、さらに両者の比較情報を提示することで、それぞれの特徴や良さを、よりわかりやすく伝えられる、目的地以外の日本各地に興味を促すことにもつながる。

サポート4:店舗のメニューの多言語化・外国人観光客の生の声を収集

 旅行にきて、ぜひ買うべきもの、食べてほしいものをわかりやすく掲載し、観光客の購買行動を促す。多言語化したメニューは店舗に持っていくこともできる。観光客の感想や意見を集めてサービスの改善に活かしている。

(3)インバウンド・データアナリティクス

 ワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)の「TRAVEL JAPAN Wi-Fi」では、訪日外国人観光客に向けて同社が運用するWi-Fiスポットの無料接続と情報配信のサービスを提供している。本サービスは日本全国で提供されており、単に外国人観光客に便利でお得なサービスであるだけでなく、観光客を迎える側にも重要なデータを提供してくれる。スマートフォンのGPS機能とWi-Fiを利用した位置情報から利用者の行動データを匿名統計化データとして利用できるのだ。

 会津を訪れた観光客の人数だけでなく、どこからどこを経由して会津に入り、その後どこへ向かっているのかや、観光ルートなどの傾向を把握できる。動態分析によって、レコメンデーションの精度をさらに高められる。会津地域への訪問経路は、交通網整備を担う公共交通事業者にとっても有益な情報として、関係地域で共有し活用できる。

広域でサービスレベルを高めるにはデジタルが有効なツールに

 インバウンド戦略は地方創生の大きな柱の1つである。だが、やみくもに単発的なプロモーションを実施しても継続的な成果は得られない。実施したプロモーションの効果を客観的に分析するために必要なデータを集め、その分析結果を次の施策に活かしていくという改善サイクルが大切である。またデータの分析結果を活かすにあたっては、ターゲットになる観光客の視点に立った施策に落とし込む必要がある。

 会津におけるDDMOは当初、会津若松市のプロジェクトとしてスタートした。現在は、会津広域の周辺7地域が連携したプロジェクトに拡大している。訪日外国人観光客は会津若松市内だけを観光するために日本を訪れるわけではない。喜多方ラーメンも食べたいし、大内宿にも行ってみたい。冬には磐梯山でスキーもしたい。だからこそ、自治体の垣根を越えて、会津広域としての魅力を発信する取り組みになっている。

 観光プロモーションで最も重要なのは、観光客の立場に立って考えることである。地域全体で高いサービスレベルを実現するためには、デジタルは最も有効なツールである。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。

現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。