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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

予防医療へのシフトを促す会津若松のIoTヘルスケアプロジェクト【第7回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年5月24日

ヘルスケア領域におけるサーキュラーエコノミーモデル

 本来、ヘルスケア領域は、関係する機関や団体、自治体や国、そして大小の医療機関と国民と、関係者が多岐にわたる。それだけに、連携の効率化が図れれば、効果が最も引き出せる領域ではないだろうか。

 医療業界にデジタルシフトを起こし、大きな効果を生むためには、それぞれが担ってきた領域も含めて、まずは、その機能や役割を分けて考え直す必要がある。そのうえで、目的に合わせて最適なサービス提供者と連携し、国民や市民にとっての新しい価値を生み出すことが肝要だ。

 企業にとっても、新しいパートナーと組み、新しいデータを取得していくことは、製品/サービスの向上、ひいては新しいビジネスへとつながるはずである。業界全体や社会の変革をもたらすためには、内なる既得権益に対し、創造的な破壊を引き起こさなければならない。本プロジェクトには、そうした目的意識を持った産官学医分野の22団体が参加している(図4)。

図4:2016年度IoTヘルスケアプラットフォーム事業の推進体制と役割

 そのうえで今後、特に求められるのが、医療分野専門のデータ分析官の育成だろう。医師免許を持ったメンバーと、データ分析の専門性を持つメンバーが共通の課題に取り組み、プロジェクトを推進していくことが重要だ。

 医師にとっても、従来なかった新しいデータを活用するにあたっては、アナリティクスメンバーとのコミュニケーションスキルを身に着けることで、相互にイノベーションとコラボレーションを推進しけるようになると考える。

 そのため会津若松市では、医療機関や大学などと連携し、医療アナリティクス人材の育成を目的としたハッカソンを開催したりしている。

デジタルシフトにより医療は劇的に変わる

 このように、医療およびその関連産業領域は、デジタル化による伸びしろが大きく、それを推進することで大きな成果を上げられる可能性を秘めている。重要なポイントは、日々の活動データ(ライフログ)や医療行為に基づくデータを、市民(患者)を中心としたパーソナルヘルスレコード(PHR)へと統合していくことである。

 PHRを医療アナリティクス人材が分析することで、市民の健康向上のためのレコメンデーションのみならず、医療の質的向上につながり得るデータの提供が推進される。そうなれば、日本の医療全体がデータを中心としたデジタルシフトを起こし、劇的な変革を遂げるはずである。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。

現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。