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- 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか
会津若松市のデジタルシフトにみる行政や企業の変革の条件【第8回】
〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜
特定メーカーに依存しないHEMSを構築
会津若松市は2012年に、HEMS(ヘムス:Home Energy Management System)設置プロジェクトを実施した。総務省の2011年度補正予算における実証事業「スマートグリッド通信インタフェース導入事業」の採択を受けたものである。
本プロジェクトの最大の特長は、複数のHEMSメーカーに、データ連携用APIの公開とHEMSの単体納入を依頼し、特定メーカーに依存しないオープンAPIを開発したことである。従来のメーカー主導によるスマートメータープロジェクトと異なり、各家庭に設置された複数メーカーのHEMSが持つデータは、会津若松スマートシティ推進協議会(現、会津地域スマートシティ推進協議会)が整備したエネルギークラウドに直接集められる仕組みが実現した(図1)。
プロジェクト開始当初、各メーカーが提案するHEMS は、いずれもバンドルモデルのサービスであった。各社のHEMSがアクセスできるのは自社のクラウドのみで、集めたデータの活用範囲も、製品/サービスの改善など、そのメーカー内での利用に限定されていた。
しかし、会津若松市が目指したスマートシティプロジェクトの目的は「地域社会のためのデータ活用(省エネによるCO2排出量の削減)」である。それには地域全体の電力データが必要になる。HEMS導入は、電力使用量を地域全体でリアルタイムに見える化することで、利用者である市民に、省エネに向けた行動変容を促進できるかどうかを検証するためだからだ。
だからこそ本プロジェクトでは、特定メーカーのバンドルサービスをつなぎ合わせるのではなく、複数メーカーの製品/サービスをアンバンドル(解体)したうえで、最適なモジュールでリバンドル(再結束)したシステムを構築するという、日本初のモデルを採用した。これにより、メーカー横断でデータをリアルタイムに見える化できたのである。
2013年、会津若松市は蘭アムステルダム経済委員会と連携協定を結んだ。その際、アムステルダム側が最も注目したのが、会津若松市とアクセンチュアの主導のもと、各メーカーの協力により実現した、アンバンドルとリバンドルによるHEMSのオープンAPI構築モデルだった。
アムステルダム市と言えば、世界的にも有名なスマートシティ先行地域である。だが、そこで導入されているHEMSは、複数メーカーのバンドルサービスであり、HEMSのデータは各メーカーのクラウドを介して、エネルギークラウドに収集される仕組みになっている。そのため、利用者への情報のフィードバックにタイムラグが生じ、市民の行動変容を促す効果が限定的であることが課題になっていた。
要件2:アンバンドルの決断
会津若松のスマートエネルギープロジェクトは、総務省で採択されたプロジェクトであったにもかかわらず、プロジェクトへの参加を断念した企業も複数社あった。「HEMSはサービスにバンドルされており、HEMS単体やデータ連携用APIだけの提供はできない」という理由から、自社サービスをアンバンドルで提供することを決断できなかったためだ。
特に大手企業の場合、自社の製品/サービスがカバーできるシステム領域を広げ、トータルソリューションとしてすべてを自社製品で提供することを強みの一つにしている。そのためか、モジュール単位での提供や、アンバンドルを積極的に推進することが難しいようだった。
一方で、アンバンドルを決断してプロジェクトに参加したメーカーは、リアルタイムな情報のフィードバックが市民の行動変容に影響する結果を目の当たりにし、地域社会におけるデータ活用の意義とスマートシティ全般に対する理解を深めた。それは、アムステルダム市のHEMSプロジェクトへの改善提案という大きな商談の機会にもつながっている。
イノベーションの多くはオープンな環境で起こるということを、企業は再認識する必要がある。本プロジェクトにおけるアンバンドルの決断は、今後のビジネスにも大きな価値をもたらすだろう。