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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松市のデジタルシフトにみる行政や企業の変革の条件【第8回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年6月21日

要件3:市民目線に立ったサービス本位のコラボレーション

 アンバンドルを決断したら、次に重要になるのが、サービス本位のコラボレーションである。自社だけでサービスが成立するとしても、市民(利用者)の立場に立ち、他社を含めたあらゆる製品/サービスを検討したうえで、利用者(市民)と市場にとって最適なサービスを実現するための選択と決断が必要になる。

 日本の製造業の多くは、ものづくりにこだわったプロダクトアウトのビジネスモデルを採用してきた。そのため、サービス本位のコラボレーションは、なかなか進んでこなかった。欧米などでは「Airbnb」や「Uber」などのシェアリングエコノミーモデルを採用する新事業の成長が著しい。これらは既存のビジネスを利用者目線でとらえなおし、「宿泊」「移動」などの機能をリバンドルしたビジネスモデルである。

 日本でも大手家電メーカーが自動運転事業に参入するなど、リバンドルによる新たなビジネスづくりが始まりつつある。重要なポイントは、利用者や市場サイドに軸足を置くことだ。そうすることで、最適なコラボレーションモデルが見えてくるはずである。

要件4:リバンドルビジネスモデルへの移行

 リバンドルする際に重要なことは、関係する組織間の相互運用性を利用者に保証し、柔軟に維持できる運用体制の確立だ。共同事業体を構築してもいいし、明確な相互運用ガバナンスを構築・維持できるのであればアライアンスでも構わない。「最適なサービスの構築」という共通目的のもと、コラボレーションでは、企業規模や地域といったサービスそのものに関係しない問題を徹底的に排除し、自らの既得権益を手放し、俯瞰して検討することが重要である。

 会津若松市のスマートシティプロジェクトには、市と、会津大学、製造業の事業者、エネルギー事業者、医療機関などに加え、ICTを中心とするおよそ40団体が参画している。産学官のコラボレーション体制もまた、実証事業を通じてアンバンドルとリバンドルを繰り返している。

 筆者は、スマートシティをはじめとするSociety5.0は、既存組織が既得権益を手放してアンバンドルし、イノベーションによってサービス本位のコラボレーションとリバンドルが実現したときに成就すると考えている。

遅れていることが地方のアドバンテージ

 地方は、都市部と比べインフラ整備に後れを取っている。その分、組織の既得権益は都市部ほど大きくないため、変化に身軽に対応しやすい状況だと考えられる。これは地方が持つアドバンテージの1つである。

 「地方創生」や「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」が注目される中、会津をはじめとする地方都市がSociety5.0の先行事例になることを願っている。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。

現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。