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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松市のデジタルシフトにみる行政や企業の変革の条件【第8回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年6月21日

IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の進展により、多種多様なモノ同士がつながるコネクテッドな時代が到来しつつある。そんなデジタルシフトによってイノベーションが加速する社会環境において、行政や企業が、自らも変化していくためには、どうすればいいのだろうか?何を手放し、何を決断すべきだろうか?その視点から、会津若松市のスマートシティプロジェクトを改めて検証してみよう。

 はじめに読者のみなさまにうれしいお知らせを報告したい。会津若松市のスマートシティプロジェクトが、平成30年度の「情報通信月間」において総務大臣表彰を受賞したのである(写真1)。ICTを活用した産業創出・人材育成などの取り組みが、ICTの普及促進に多大な貢献をしたと認められたのである。ここまで取り組みを続けてこられたことに感謝しつつ、これからも一層プロジェクトの発展に寄与したい。

写真1:総務大臣表彰の授賞式にて。左から会津大学の難波 雅善 准教授、会津若松市の室井 照平 市長、筆者)

 さて、コネクテッドな時代のつながりは、これまでのように、特定企業の製品/サービスと利用者など、限られたモノや人を対象にしたクローズドなつながりとは大きく異なってくる。業種やメーカーの垣根を越えてAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)の標準化が進み、あらゆるモノや人が、共通のIoTプラットフォームとつながるからだ。

 そして、プラットフォームに集まるさまざまなデータを分析することで、チャネルも形式も異なる情報の間に関連を見つけ出し、これまでにない新次元のサービスが創出されていく。

 デジタルシフトによるオープンイノベーションに取り組む過程において、行政や企業が自らも変化していくためには、どうすればいいのだろうか?何を手放し、何を決断すべきだろうか?結論から言えば、「Dare to Disrupt(創造的破壊を恐れるな)」である。創造的破壊は、既存の仕組みを根底から見直す勇気と、サービス本位の決断から始まる。以下に具体的な要件を挙げる。

要件1:慣習としてのバンドル・ビジネスモデルの限界

 政府は2017年6月、「未来投資戦略2017」および「経済財政運営の基本方針2017」を閣議決定した。「コネクテッド・インダストリーズ」や「Society5.0」と呼ぶ将来像に向けて、国全体として舵を切っていく。いずれも、業界の枠を超えてデータがつながり、有効活用されることでイノベーションを生み、社会課題を解決していく。

 Society5.0について内閣府は、次のように説明している。

「Society 5.0で実現する社会は、IoTで全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります」

 先の第3次産業革命では、多くの企業で製造プロセスの自動化が進み、製品の生産性と品質が飛躍的に向上した。その後の情報化は、高度なデジタル技術の利活用によって、企画/開発から販売、物流までのビジネスにおける、すべてのプロセスをスマートに連係させることで、生産性と品質の向上に加えて、多品種少量生産や短納期を実現した。しかし、これまでは、企業や組織内に限定されたイノベーションがほとんどだった。コネクテッド・インダストリーズやSociety5.0では、これを企業や組織の外側、すなわち都市や社会へと広げていく。

 会津若松市が取り組んでいる市民主導型のスマートシティプロジェクトは、まさにSociety5.0そのものであると言えよう。ビッグデータプラットフォームを整備し、さまざまなデータを収集・分析し、最先端の技術や知識を持つ企業や団体とコラボレーションすることで、オープンイノベーションを起こしている。市民の暮らしを網羅する、エネルギー・観光・予防医療・教育・農業・製造業・金融・交通の8つの領域をターゲットに、アナリティクス人材の育成にも力を入れている。

 スマートシティの実現には、オープンな連携が不可欠だ。特定の企業や団体に限られた協業で得られる成果は限定的になってしまう。多岐にわたる市民生活を根本から変え、市民主導型のスマートシティを実現するためには、さまざまなステークホルダーが連携していくことが重要である。具体的な事例として、会津若松市のスマートエネルギープロジェクトを紹介しよう。