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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松スマートシティプロジェクトの核となる「都市OS」【第9回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年7月19日

IT業界に求められるビジネスモデル変革

 都市OSのようなIoTプラットフォームを開発し、そこでサービスを提供するビジネスモデルを作っていくためには、IT業界全体のビジネスモデルの変革がとても重要だ。IT業界が変わらなければ、自治体のデジタルシフトは実現しないだろう。それでは行政サービスは、民間サービスに後れを取るだけではなく、地域行政における産官学民連携モデル構築の足を引っ張ることにもなりかねない。

 現在も多くの自治体で、大手ITベンダーによる製品提供型のシステムが稼働している。そうしたシステムの中には、法律が一部改正されただけでも、それに対応するためのシステム変更に莫大なコストがかかるものも多い。それを「仕方がないことだ」とあきらめて運用しているのが実状である。

 民間サービスでは日々、新しい魅力的なサービスが提供されている。にもかかわらず自治体のサービスが更新されるのは、せいぜい1年に1回程度、大規模な更新となればもっと少ない。これは、「製品を提供する」という考え方のもと、RFP(提案依頼書)を基にシステムを設計・開発し、RFP通りに不具合なく構築したシステムを引き渡した時点で完了というスタイルが主流だからだ。

 一方、会津若松市の都市OSではアジャイル開発モデルを採用し、機能強化や市民の要望に応じて必要な時にサービスを追加している。。これまでになく新しい市民サービスを実現する都市OSの開発だからこそ、RPFはそもそも存在しない。関係者が市民として、必要とされているサービスを考え、アイデアを出し合い、討議し、プロタイプを開発し、ユーザーインタフェースの在り方など試行錯誤を繰り返しながらあらたなモデルを構築せざるを得なかった。アジャイル型開発モデルになるのは当然の流れでもある。目的は、システム開発ではなく、あくまでもアウトカムとしての利用率にこだわったサービスの開発である。

 デジタル時代には、製品提供型からサービス提供型、つまり作業に終始するアウトプットではなく、結果にコミットするアウトカムのビジネスモデルへのシフトが必要になる。IT業界は、システム化の本質をサービスとして実現していける企業への変革を期待されているのである。

都市OSが促進するさまざまな連携

 都市OSは、それ自体を構築・整備することがゴールではない。都市OS上で都市計画や産業政策などの推進をサポートし、それぞれの地域が安定した行政を継続的に推進できる状態にすることが目的だ。都市OSには、政策決定に必要なデータやレコメンデ―ションデータなどがあり、連携用のAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェス)も用意されている。

 都市OSの安全な運用に必要なのが、共通化・標準化された相互運用性と、ルールを関係者でシェアしながら運用できる体制である。総務省と地方自治体、民間企業が連携し2017年7月に設立された「地域IoT官民ネット」には100を超える自治体が集まった。

 地域IoT官民ネットでは、ルールの共通化を目標の1つに掲げている。都市OS上での連携を実現し、市民のサービス利用率が増えれば、未だ根強く残る行政のレガシーシステム時代にも終止符を打てると確信している。

 第4次産業革命が進む現代にあって、日本政府は「Society5.0(超スマート社会)」を発表し、2018年は「デジタルファースト法案」の検討も進めている。この勢いに乗り遅れることなく、すべての関係者が足並みをそろえ、一気に日本のデジタルシフトを前進させる必要がある。これが最後のチャンスだと皆が覚悟を決め、「Dare to Disrupt(創造的破壊を恐れるな)」を貫いて実現させなければならない。

 スマートシティの核である都市OSは、まさにデジタル時代の地域政策のオペレーティングシステム(OS)なのである。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。

現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。