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会津若松スマートシティプロジェクトの核となる「都市OS」【第9回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年7月19日

会津若松市のスマートシティは、デジタルを活用して地域の活性化を図り、市民生活をよりスマートで豊かにすることを目指している。そのためには、行政のデジタルシフトが必須であり、ビッグデータやディープデータを活用するためのIoT(Internet of Things:モノのインターネット)プラットフォームが不可欠になる。そうした都市のためのIoTプラットフォームなどをアクセンチュアでは、「都市のオペレーティングシステム(OS)」すなわち「都市OS」と呼び、多地域で共有を前提に開発を続けている。今回はこの「都市OS」を核とした地域行政の重要性について解説する。

 「都市OS」の重要性を述べる前に、日本の行政におけるIT化の現状と、その背景をおさらいしておきたい。

 2000年に森 喜朗 首相(当時)がIT戦略を柱とする政策を所信表明演説に初めて盛り込み、日本政府は日本におけるIT革命の幕開けと電子政府の実現を宣言した。2009年には電子行政クラウド構想として「霞が関クラウド」「自治体クラウド」を発表した。これらは電子政府をクラウド上に構築するという構想であり、世界の行政に先駆けての公式発表でもあった。

 IT革命の幕開け宣言から18年が経った今、日本のIT化はどうなっているだろうか?宣言以降、日本政府はその実現に向けてさまざまなシステムを開発してきた。しかし、システムの共通化・標準化は実現しておらず、今やデジタル化の主流になったクラウド化も一向に進んでいない。

 一方で世界は、ITのオープン化を進め、多くのシステムがグローバルスタンダードな技術に刷新され稼働している。クラウドサービスの普及によって、さまざまなシステムが「所有するもの」から「利用するもの」へと変化を遂げている。これほどまでに、日本と世界の間に差が生じた原因は何なのだろうか?

 日本には地域行政の要として1700以上の基礎自治体が存在する。それぞれの自治体が理想とする経済モデルが異なることから、さまざまな事情と課題が複雑に絡み合っている。たとえば、地域ごとに独自の政策や条例が施行されているために、ITベンダーごとに異なるパッケージを採用した部分最適のシステム導入が続いていること、共通化・標準化を実現するために必要な強制力を持った計画と推進体制が整っていないことなどである。結果、日本はIT革命を思うように推し進められず、システムの共通化・標準化は実現されていない。

システムの共通化と多地域展開を前提とした「都市OS」

 これに対し会津若松市では、2011年8月にスタートした復興支援活動において、復興計画の中核事業としてスマートシティを提案した。図1は、オープンガバメント・コンソーシアム(OGC)が2012年3月11日に開いた復興記念イベントで初めて発表した資料の抜粋である。図中の「OGプラットフォーム」が「都市OS」に相当する。

図1:会津若松市のスマートシティ構想は「都市OS」を前提にしている(出所:オープンガバメント・コンソーシアム)

 都市OSは、自治体の既存システムを代替するものではない。真の市民向けサービス実現において、自治体に共通して求められる役割・ニーズに応えるために、システムの共通化と多地域展開を前提に開発しているものである。

 ただし、自治体に求められる役割・ニーズは幅広く、かつ常に変化していくものだ。まずは会津を実証フィールドに位置付け、市民主導のスマートシティの要となるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)プラットフォームなど、ニーズが高いところから開発し、徐々に発展させいくという考え方を採っている。復興にとどまらず、ひいては日本全体の地方創生までも目標に、都市OSの開発プロジェクトは現在も進行中である。