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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松のデジタルシフトによる地方創生【第11回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年9月25日

プロセス2:Reference(参考となる成功事例)

 では、To Be(あるべき姿)は本当に実現できるのか?そんな事例が世界のどこかにないのか?筆者らはグローバル企業の強みを活かし、世界中の事例を集めた。そしてデンマークとスウェーデンにまたがる「メディコンバレー」という、医療情報を集めることで産業振興策を成功させてモデルを見つけ出した。

 デンマークでは、出産すると即、マイナンバーが振られ血液も採取されDNAデータも管理される。その膨大な医療データに引き寄せられ、世界中の医療関連企業(病院・製薬企業・バイオ技術企業・学校)が集積するに至っている。現在ではデンマークとスウェーデンの両国の合計GDPの20%をはじき出しているとも言われ、「EU最大の医療産業クラスター」と呼ばれている(図3)。

図3:会津若松市がモデルにした「メディコンバレー」の概要

 前述したように、会津若松市はデータ駆動型社会を目指すことで、そのデータを活用する企業群を集積する戦略を立てた。

プロセス3:POC(実証検証)

 いよいよ実証事業である。会津若松市では7年間で18の実証事業(計画策定から実施まで)を実施してきた。そして多くの企業が参加した。予算はアクセンチュアが投資した案件から、復興庁や地方創生本部、総務省、経済産業省と多くの国の支援を仰ぎながら実施してきた(図4)。

図4:福島県の地域別プロジェクトの実績(2011年〜2017年)

プロセス4:Model(設計図・仕様)

 18のPoC(概念実証)から見えてきたモデルが図5である。下位レイヤーに「オープン・ビッグデータ・プラットフォーム」があり、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)機器など多くのものがつながっている。

図5:18のPoC(概念実証)から見えてきた会津若松市のモデルの概要

 会津若松市はオープンデータを推進し、「データ・フォー・シチズン(D4C)」を整備したうえで、市が保有するデータは基本的に公開している。それらのデータを使いながら、人材育成を会津大学と連携して実施する。特に日本に不足している、データサイエンティストとサイバーセキュリティ人材の育成に注力している。

 共通プラットフォームの上で、各種データを活用したサービスを提供する分野としては、エネルギー、観光、予防医療、教育、農業、製造業、金融、モビリティの重点8領域がある。さらに最上位レイヤーに市民が位置づけられている。

 このモデルにはしばしば「実証事業として広範囲すぎ、総花的にならないか?」「もっと分野を絞り集中的に実施すべきではないか」といった意見が寄せられた。だが、市民参加率を上げることと参加企業を広く求めるためには8分野すべてを実施すべしと結論づけた。

 たとえば、予防医療プロジェクトを専門に実行することはできる。しかし、それでは若い市民の参加率は下がるし、誘致候補企業も医療関連に限定されるだろう。

 さらに、このモデルは、関係者に広くオープンにした。地域全体の創生につながるプロジェクトであり、多くの関係者に共有することで目指す方向や考え方を理解してもらい、重複開発を行わないなど、地域計画がモデルに沿って進行することを願ってのことである。オープンの考え方を重要視したことで、多くの企業が今も、この原則を守っている。