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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松のデジタルシフトによる地方創生【第11回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年9月25日

会津若松市は、本連載で紹介してきたように、デジタルシフトを受け入れることで地域の再生を目指してきている。間接的ではあるが、2015年に発表された通称『増田レポート』による「消滅地方都市」の公表がきっかけだ。今回は、地方創生計画の角度から会津若松市の変革プロジェクトを検証し、そのシナリオを明らかにする。

 2015年に発表された通称『増田レポート』は、多くの地方都市に対し“消滅”の可能性を指摘し、その原因が人口減少にあることを明示した。福島県は原発問題を抱えていたため、その配慮からか、調査発表の対象から除外された。だが含まれていたとすれば、少なからず県内の複数の都市が同様の指摘を受けたことだろう。

 イノベーションは苦境に立たされることによって起こりやすくなる。復興と創生をやり遂げなければならない福島県会津若松市は、この苦境から脱するためにデジタルを受け入れたのである。

7つのプロセスを7年かけて実施

 復興と地方創生を成し遂げるために会津若松市と筆者らは、セオリー通りにシナリオ決定し、丁寧にそのプロセスを実施していった。後述する7つのプロセスを7年かけて実施し、地方創生への展望が拓けてきたところである(図1)。

図1:会津若松の地方創生における7つのプロセス

 その大きな一歩が、東京からの十数社、500人規模での機能移転である。それらの企業は、会津大学卒業生の受け皿になり、若者を地元就職へ導き、生産年齢人口の地元定着に大きく貢献するであろう。

 会津大学生へのアンケート結果によれば、東京への就職希望は30%、どこでも構わないが70%である。ただし条件は「東京と同レベルの仕事ができれば」である。実態は80%の卒業生が東京へ就職する。このモデルは会津特有ではなく、どの地方大学も抱える課題ではないだろうか?

 学生の希望と実態が完全にミスマッチしているのが実状だ。これを解決するためには、学生が満足する企業の誘致が有効だ。それが実現できれば、学生は地元(地方)へ就職し、東京一極集中問題は解決へ向かい、地方創生につながっていくものと考える。

 以下では、このシナリオを実現するための7つのプロセスを解説していこう。

プロセス1:As Is/To Be(現状と将来像)

 会津の現状・実態を把握し、あるべき将来像を定め、その実現のために実施しなければならないテーマを決める。会津の現状を調査すると、図2のように、地域特有の課題はなかった。超少子高齢化、医療費の拡大、社会資本の老朽化、エネルギー問題、地域産業の低生産性など、地方都市が共通に抱える課題に直面していた。

図2:会津若松市の現状把握から導いた将来像

 そして、向かわなければならない、あるべき将来像も同じく共通のテーマになった。この結論から筆者らは、12万人という約日本の1000分の1の会津若松市を“ミニジャパン”と見立て、日本の課題をデータ駆動型社会とデジタルによって解決する実証フィールドに位置付けることにした。この大きなビジョンの実証事業に興味を示す企業を誘致する戦略を立てた。