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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松のデジタルシフトによる地方創生【第11回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年9月25日

プロセス5:Certification(認定・認証)

 会津のデジタルシフトプロジェクトは前述したように、会津を“ミニジャパン”と見立てた、日本の課題を解決するための実証フィールドに位置づけている。そのため、日本が目指す政策と連携するため、2015年からは政府による認定制度の多くに申請する方針とした。多くの参加候補企業も、各省庁から認定されている地域であればこそ、機能移転の候補地にもなるし、実証フィールドとした会津若松市の市民の理解も進むと判断したからである。

 2017年10月に米ワシントンDCで開催された、日米インターネット政策協力対話では、プロセス4のModelを、日本側のスマートシティの代表モデルとして発表した。それが2018年の総務大臣表彰へとつながっている。会津若松市は、スマートシティの先進都市として名高いオランダのアムステルダム市と提携も果たしている。

 また会津大学も年々、日本版大学ランキングで上位を占めるようになり、入試倍率も2018年度は7倍を超えるまでに至っている。日本政府がデジタル化のモデルとして連携しているエストニアのタリン工科大学と提携したことで、ソーシャルサイエンス分野の強化にもつながっている(図6)。

図6:積極的に申請により会津若松市や会津大学が取得した認定や受賞の例

プロセス6:Promotion(情報発信・営業)

 会津のデジタル変革に向けたプロジェクトには、どのような意義があり、先進的でチャレンジャブルであるか。このことをデジタルを推進している多くの方々に知ってもらい、会津に来ていただき、会津への機能移転や進出を検討いただきたいと考えている。本連載を『DIGITAL X』に毎月投稿している理由も、ここにある。2019年2月には、会津地域最大のICTビル「スマートシティAiCT」が完成し、大々的なオープニングセレモニーが計画されている。

 また日本政府は「デジタルファースト法案」の骨子を閣議決定し、2018年内に成立させる計画で進めている。デジタルファースト法案は、これまでのICT化を進める計画とは異なり、デジタルを前提に切り替えるという大胆な戦略であり、それを法整備して強制力を持たせる。会津若松市のデジタルシフトの経験が活かされる法案だとも、デジタル実証フィールドとして本法案の実証も担う地域であるともいえる。

プロセス7:Expand(誘致拡大・転入増)

 プロセス1〜7を7年間かけてアジャイル的に繰り返してきた。多くの企業がプロジェクトに参画し、多くの政府関係者も視察に訪れた。現在では、月に5団体程度の視察があり、プロジェクトの全貌を説明する機会も増えている。地方創生は簡単には進まないが、その地域の特色を活かし、人々のモチベーションを高めるプロジェクトを起こすことで、人も企業も動く可能性が高まると考える。

 実際、アクセンチュアの若手には、会津のデジタルシフトに関わることと、QOL(Quality of Life)を追求するために、会津を勤務地として選定する社員が多い。地方創生は地域の生産年齢人口の減少に歯止めをかけることで成就する。会津若松市とアクセンチュアは、IT専門大学である会津大学が立地していることを最大限に活かし、デジタル企業の集積を実現することで、地方創生を成し遂げたいと考えている。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。

現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。