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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松市のデジタルシフトをやり切るための4つの条件【第12回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年10月18日

条件3:デジタルデバイドを解消する

 デジタルシフトに対し、「若者にはなじみやすいかもしれないが、地方や高齢者などが置き去りになるのではないか」という声が聞かれる。だが、ここで私は、「デジタルこそが超高齢社会、東京一極集中による課題解決の一手となる」ことを強調したい。

 行政のデジタル化において、日本政府が参考にしているのがデジタル国家エストニアだ。同国では、2005年からスマートフォンなどを使ったインターネット選挙投票が実施されており、いまでは全投票者の3割程度がインターネットによる投票システムを利用し、同制度利用者の間には世代の差もほとんど見られないという。

 インターネット選挙投票の導入のきっかけになったのが、高齢者と地方在住者である。エストニアは、旧ソビエトから独立したバルト3国のうちの1国だが、立国当初から多くの事柄を国民投票によって決めてきたという歴史的背景もあり、すべての国民に投票の機会を平等に与えることを最重要視している。だからこそ、体が不自由になった高齢者や、近くに投票所がない地方在住者が投票しにくいという課題をインターネットで解決したのである。

 地方での生活に必須ともいえる自動車による移動はどうだろうか?日本では、交通死亡事故の総件数こそ減少しているものの、高齢運転者による死亡事故件数の割合が右肩上がりに増えている(『平成29年交通安全白書』, 内閣府)。結果、高齢者の免許返納を推進しているが、これは高齢者の移動手段を奪い始めている。都市部なら、公共交通で代替できるかもしれないが、地方では、採算性の問題からバスや電車の運行本数の削減や路線の廃止が進んでおり、代替策がない。

 自動運転車やオンデマンド型の自動運転バスなどは、地方こそニーズがある。実際、福島県では、会津大学の卒業生が立ち上げたベンチャー企業である会津ラボが、福島県浪江町で自動運転による巡回交通サービスの実証実験を実施している(発表資料)。自動運転車両の各種センサー類からのデータや3次元マップなどを共通利用できるプラットフォームを開発し、福島トヨペットとの協業により、レベル3(ドライバーが介入できる状態での自動運転)の検証を公道で行っている。

 「デジタルは都会の若者のモノ」との認識を改め、高齢者や地方在住者こそがデジタルのメリットを享受できるとの理解に立ち、いかにデジタルデバイドを克服するかに注力すべきだろう。スマートシティ会津は、多くの高齢者にスマートフォンやタブレットの利便性を丁寧に教えるなど、デジタルデバイド解消に積極的取り組んでいる。

条件4:法律をデジタルシフトさせる

 日本の行政システムのデジタルシフトは、2001年に初めて施行されたIT基本法以来、2009年に霞が関クラウド・自治体クラウドの計画が立てられ、行政情報システムの統合化・集約化、そして効率化・低コスト化が図られてきた。2016年のサイバーセキュリティ基本法、2017年の官民データ活用推進法が施行され、データ駆動型の準備が整って来た。ただし、これまでのIT関連法案は基本法であり、ガイドラインの域を越えなかったこともあり、必ずしも業界全体で十分に取り組みが進んでこなかったのが実状だ。

 2018年秋の臨時国会では「デジタルファースト法案(通称)」が提出されるとされている。同法が成立すれば「デジタルファースト(オンライン利用前提)」「ワンスオンリー(重複する情報提供の回避)」「コネクテッドワンストップ(行政サービスと民間の融合)」のもと、行政サービスのクラウド化が徹底的に推し進められるだろう。

 これまでも一部の規制を緩和するために、特定の地域を認定する制度(たとえばドローン特区)などが整備されてきた。だが、監督官庁ごとに縦割りだった法律も、社会全体に対応できる法体系のデジタルシフトが必要になる。データ連携などを前提としたときにどのようなリスクが考えられるのか。たとえば提供者の許可を取った(オプトイン)データにおいて、活用範囲に関するデータ提供者と活用者の認識に齟齬が出るリスクなども検討されるべきだろう。

 会津若松市のスマートシティでは、行政システムの共有化・標準化を見据え、オープンなIoTプラットフォーム「都市OS」を核にすることで取り組みを推し進めてきたことは第9回で詳述した通りだ。会津若松には、デジタルを前提に、データを横串でつないだ実証事業を実現できる環境が整備済みである。デジタルを活用した地方創生のモデルケースとして、本格的な法整備を前にした実証実験に、より一層取り組んでいきたい。

 地域主導のスマートシティプラットフォームが、地域と共に発展し、今後の日本のデジタルシフトモデルを完成させるための取り組みは、これからが本番である。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。

現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。