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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松市のデジタルシフトをやり切るための4つの条件【第12回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年10月18日

本格的にデジタルシフトを進めていくには、これまでの常識を捨て、デジタル社会を前提とした概念で、新たな計画を立案し、既存環境と切り離した新たな実施体制を整備する必要がある。今回は、デジタルシフトをやり切るために必要なこととは何かを改めて整理したい。

 デジタルシフトを進めるに当たっては、いったん“あるべき論”の追及に集中し、採算性やビジネスモデルは別途考えるぐらいの気概で進めるほうが良いだろう。既得権益は身の回りにも、自分の中にも既成概念としてまん延しており、それは大きな壁となり、プロジェクト推進を妨げることになるからだ。

 それだけに、デジタルシフトへの取り組みは、これまでの時代が大幅に変革され、その不連続な先にある“デジタル前提の社会”であることを十分に認識することから始まる。

条件1:デジタル社会のブループリントとビッグデータを整備する

 本格的なデジタルシフト推進に当たって、まず必要になるのが、そのブループリント(青写真)だ。ビッグデータをベースにしたデータ駆動型の社会をデザインし、その実現に必要なビッグデータは何か、それをどう収集していくかを明らかにしなければならない。

 データは、自治体が保有するものだけでなく、市民からも提供を受け、まちづくりに活用する必要がある。そのためには、市民の理解と了解を得たうえ(オプトイン)で活用し、意義のある“ディープデータ”を集めることが重要だ。

 会津若松のスマートシティプロジェクトにおいて、市民からのデータ提供をどのように推進してきたか、市が所有するオープンデータを活用しやすくするためにどうプラットフォームを整えてきたかは、第3回に詳述した通りだ。市民にデータ活用のメリットを実感してもらうことで、データ提供への理解を広げてきたのである。

 ビッグデータに基づく政策を決定するに当たり課題になるのは、データの精度である。データが誤っていれば、その集合であるビッグデータに意味はなく、データ分析の結果も全く間違った方向性を示すことになる。とはいえ、多種多様な分野のデータをつなげて活用しようというのは新しい取り組みだ。誤入力やデータの整合性など、誤りがどこで発生するのかを理解したうえで、正確なデータを取得することが最も重要になる。

 ここにIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)といった技術やツールを活用すれば、人の手を介さないことによるヒューマンエラーを避け、正確なデータを自動的に取得・提供できる。たとえばアクセンチュアは、多くの種類のAIから、その特性を活かしたAIを組み合わせて利用する仕組み「AI-HUB」を提供している。データ収集の場面でも、これを活用することで、より正確なディープデータが得られるようになる。

 そうして集めたデータは異なる産業をつなぐ“共通言語”になり得る。データプラットフォームを整備することで、地域において異なる分野でのデータ活用が実現する。

 従来なら、エネルギー消費データはエネルギー会社が所有し、医療データは病院が管理していた。インバウンドの旅行客のデータは旅行代理店が新しい旅行商品を作るためだけに活用してきた。これらのデータを横串でつなぐプラットフォームは、これまでに経験のないデータ駆動型になるための環境になる。官民共同でデータ連携を進めることが、新たな街づくりのヒントへとつながっていく。

条件2:予算をデジタルシフトさせる

 デジタルシフトのプロジェクトは、プループリントに沿って実証事業が繰り返され、そこからもたらされたモデル策定までを継続するのが一般的だ。しかし、コストの観点から、既存サービスと新たなデジタルサービスを長期間併存させることは望ましくない。実証事業の成果から実装への見込みが見えてきた段階で、既存サービスに費やしていた予算をデジタルサービス向けにシフトする計画策定が重要である。

 図1は、予算のデジタルシフトの概念だ。ブループリントを実現するには、既存予算の中で何をデジタルシフトするのか?どうシフトできるのか?予算上のデジタルシフト計画を合わせて策定しておくことで、実証事業後に実装へ切り替えられるようになる。多くの場合、既存サービスは提供終了となり、既存サービスのための既存システムは、デジタル化の際には大幅に見直されることになるだろう。

図1:予算のデジタルシフトの概念