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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松だからこそ見える日本と世界の動き(前編)【第13回】

アクセンチュア福島イノベーションセンター座談会

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2018年11月22日

中村 1972年に田中 角栄 氏が唱えた「日本列島改造論」では、本社機能を首都圏に、地方には工場を配置する“垂直型”の国づくりが進められました。ですが、東京と地方の格差を縮めるには、フラットな「地方創生」を進めていくべきです。

 昨今は、東京でやる必要のない業務まで東京で処理しています。地方創生には人口の転出を減らし、転入を増やさなければなりません。デジタル技術はロケーションの優劣もなくしますから、大企業の支社・支店のピラミッド構造をフラットな組織へと変革できます。

 私たちが会津若松市で実践してきたモデルを参考にする地域もすでに出始めています。ビジネスにおいて「仕事があるところに拠点を構える」のは当然ですが、受け身では“ワクワクする仕事”は作れません。民間企業が自主的に動いて地域の大学などと相互補完しながら、その地域にあった産業を創出し、新しい仕事を作る方向にビジネスを転換することで企業の地方展開は加速すると考えています。

齋藤 会津若松市も高度成長からバブル期までは企業城下町として非常に栄えました。しかしテクノロジーシフトの波は産業構造を変え、地場産業も容赦なく襲いました。新しいやり方を考え実践しなければ、地方都市経済は立ち行かなくなるという肌感覚があります。

中山 私が会津大学卒業後も、ここで働き続けることを選んだのは、会津から日本全国へ、会津から世界へと発信する仕事に携わっていけるからです。モチベーションの維持には、そうした動機付けが欠かせないと思います。

中村 2011年の東日本大震災と、人口減少に伴い消滅が予測される市町村を明示した通称『増田レポート』。この2つの衝撃は、行政の首長や大学に大きな危機感を持たせるのに十分すぎるインパクトがありました。企業誘致も労働集約型だけでなく、IT産業などの誘致に積極的にならなければいけない理由が、そこにもあります。

齋藤 2019年春には会津若松市内に500人規模の新たなICTオフィスビルが竣工します。ランチ需要など、人が集まることで生まれる経済効果を、周辺商店だけではなく、デジタルの力で地域全体の活性化につなげようという試みも進めています。ローカル版デリバリーマッチングサービスのような仕組みです。将来的には、限界集落などに暮らす「買い物困難者」の日常生活を支援するソリューションに拡大できると考えています。

海外のスマートシティ事例と肩を並べる会津若松市の施策

中村 サービスの横展開は重要です。会津若松市で始まっているスマートシティのサービスも、将来的には10カ所以上へ横展開できるでしょう。

 私は現在、海外のスマートシティへの取り組みにおいて、その動向を注視しているのがカナダのトロントと米国のシアトルです。トロントは米グーグルの関連企業や、シアトルは米アマゾンが、それぞれのスマートシティ計画を主導しています。

 彼らは、デジタルで急成長してきた会社ですが、「単なる“ビッグデータ”では価値を生まず、地域に密着して“ディープデータ”を運用しなければ真価を発揮しない」と気づき、2年ほど前から戦略を変更しているのです。

 これに対し私たちは、7年前から会津若松市のスマートシティプロジェクトで、地域密着の“ディープデータ”に取り組んできたのです。

ハン 私が担当するデータ分析業務では、市民向けWebサイトのページ遷移や外国人ユーザーの利用動向などを分析しています。これらはすべて、ディープデータの分析ですね。

齋藤 CIFはSI案件と並行し、スマートシティプロジェクトでも、デジタルシフトの潮流を日本全国へ波及させる役割を担っています。会津大学と地元製造業の業界団体、そしてアクセンチュアが連携し、中小企業におけるIndustry 4.0モデルを実装するプロジェクトなども進行しています。CIFそして会津若松市のプレゼンスは確実に高まっていくのではないでしょうか。

(後編に続く)

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。

現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。