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- 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか
会津若松の戦略ICTオフィスビル「スマートシティAiCT」、市民交流や観光拠点としても期待【第15回】
事業会社にスペースを貸し出す「ホルダー企業」制を採用
中村 ところで今回、スマートシティAiCTを市が運営・管理するのではなく、土地・建物の所有者が事業会社にスペースを貸し出す「ホルダー企業」制にした理由は何だったのでしょうか。
白岩 民間の資本や知見と組むことで、より大きく、よりインパクトのある施設にしたいと考えていたためです。AiCTの土地は市の所有ですが、建物はホルダー企業に決まったAiYUMU(あゆむ)と市の共有財にしています。そのうえで、運用をAiYUMUに委託しています。
八ッ橋 善朗(以下、八ッ橋) AiYUMU 代表取締役の八ッ橋 善朗です。公共事業はこれまで、企画から発注、運営までが役所で完結し、民間が関わるケースはほとんどないのが通例です。これに対しスマートシティAiCTは、民間が企画提案したものが審査で選任され、その後に運営責任までを担う稀有なケースです。
私たちは、これからのまちづくりは、行政を信頼し一任するのでは足りなくて、市民一人ひとりが自分の町の将来をどう描くかを考え、積極的に関わることだと考えていました。自分たちもリスクを取りつつ活躍する。そんな視点でまちづくりを考えていた時に、会津若松市からAiCTのプロジェクト公募があったのです。
白岩課長が話されたように、官と民それぞれに得意なことがあれば、限界もあります。そこを相互補完しながら民間の立場で、まちづくりのための役割を探っていく。
会津若松市を生活と事業基盤にしている我々にとって、市の衰退は自分たちの生活の質の低下やビジネスの先細りに直結します。リスクを取ってでも、新しいまちづくりに一緒に取り組むことは、自分たちの将来を自ら切り拓くという意味でもありました。
AiCTのプロジェクトは“みんなの夢室(ゆめむろ)”
八ッ橋 とはいえ今回オフィス棟に入っていただくIT業界は、成果物が工業製品のようには目に見えないばかりでなく、技術の専門性の高さ、技術革新のスピードや企業の盛衰が激しく、参加を決断する際にはかなり考えました。
ただ、この事業は民間の誰かがやらなければならないことは理解していたからこそ、最後は思い切って腹をくくったことも事実です(笑)。市役所は市民の税金の運用について最終責任を取らざるを得ませんから、失敗のリスクはできるだけ避けたい。これは当然です。だからこそ我々のような日々収益を考えながら事業を運営している民間企業の出番だと。
アクセンチュアさんを含め、大企業にぶら下がるのではなく、市長のリーダーシップのもと、市民が町の将来を考え、今回オフィスに参集される企業の勢いも得ながら、一つひとつ丁寧に夢を育てあげていきたいのです。いわば、会津若松の人々の夢を育てていくインキュベーターとしての「夢室」のような存在ではないでしょうか。会津の人間は頑固者ですが自立心が強い。時間をかけて、一つひとつ形にしていきます。
中村 我々の気持ちも全く同じです。成功の秘訣はパートナーシップであり、産学官民の連携が不可欠です。ここでの「民」は市民です。市民中心のまちづくりであるところが、会津若松市のスマートシティプロジェクトのポイントです。
日本には国や行政に頼りがちな国民性があります。しかし産学官民の連携では、「自分たちの町をどうしていくのか」という横の連携、すなわちパートナーシップが重要です。
白岩 そうですね。スマートシティAiCTはハードウェア的な整備ではなく、意見や知見の連携にこそ本質があります。そうした意識が会津若松市に芽生えているのを実感しています。
ビジネスのためだけでなく市民が交流できる場に
中村 スマートシティAiCTは単なるビジネスオフィスではなく、市民の交流の場としての機能も有しています。
八ッ橋 はい。スマートシティAiCTは単なるハコモノではありません。どんな都市にも文化や伝統があり、教育や医療には、その町の特徴が表れます。会津には会津のそれがあるのです。これからの会津若松市民に必要なのは、「これからの会津を皆で考え共有できる、交流する場所」だと考えていました。
AiCTは、この都市にふさわしい規模のオフィス棟を備えています。そこに併設される交流棟は、これまで市の産業を担ってきた商工会議所をはじめ、スマートシティプロジェクトの発足当初から携わってきたメンバーや、市民、市外から訪れる人々が「住み続けたいまち」のアイデアを持ち寄り交流できる場所です。もちろんオフィス棟に入居される皆さんの要望や知見も反映し、そこでの成果を周知活用できる場所として設計しました。
中村 スマートシティAiCTには、世界に名だたる企業が入居してきます。従来は東京でしか聞けなかった講演が会津若松市で開催されるようになるでしょう。地元企業が参画し、大学生が加わり、市民講座などを通じて町の人々が集まることで意識が変わると思います。そのための交流棟です。
アメリカでも、シリコンバレーはカリフォルニア州の片田舎です。しかし毎晩のようにカクテル片手のライトニングトークのイベントがあり、起業家や投資家が集います。それが、ここ会津若松市でも実現することには何の疑問もありません。
白岩 スマートシティAiCTのプランの発足時、市としては「市民とのつながりを実現してほしい」と要望を出しましたが、期待以上の提案でした。民間の知恵の凄さやアイデア力に驚かされたことをよく覚えています。