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- 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか
会津若松の戦略ICTオフィスビル「スマートシティAiCT」、市民交流や観光拠点としても期待【第15回】
会津若松のスマートシティプロジェクにおける重要施策の1つが次代を担うデジタル人材の育成と定着だ。そのための戦略拠点となる「スマートシティAiCT(アイクト)」が2019年4月、会津若松市の中心部に竣工する。最先端のファシリティを持つICTオフィスビルで、同地での桜の開花と共にビジネスをスタートさせる。なぜ会津若松市はICTオフィスビルの建設と運用に取り組むのか。キーパーソンによる鼎談の内容をお伝えする。(文中敬称略)
2019年4月に竣工するICTオフィス「スマートシティAiCT(アイクト)」。公募で決まった、その名称は「会津ICT」の略ではあるが、AiCTの「A」には「AIZU(会津)」「AI(人工知能)」「Advance(前進、進出)」の意味が込められている。
AiCTは、会津若松市によるICTオフィス環境整備事業を中心に、「ひと・しごと・データが集まる『まち』」として整備された。先端ICT関連企業の集積を目的に、集い・つながる場として親しみやすいエリアになるよう計画されている。
会津若松市における企業誘致の責任者である白岩 志夫 氏と、AiCTの整備・運用の舵取りを担うAiYUMU(あゆむ)の八ッ橋 善朗 氏、そしてアクセンチュア・イノベーション福島のセンター長である中村 彰二朗が、AiCTの狙いや、その意義について鼎談した。
中村 彰二朗(以下、中村) アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長の中村 彰二朗です。2019年4月、最先端のICTに特化したビジネスオフィス「スマートシティAiCT(アイクト)」がオープンします。会津若松市としては、どのような経緯からAiCTの設置に至ったのでしょうか。
白岩 志夫(以下、白岩) 会津若松市の観光商工部で企業立地課 課長に就いている白岩 志夫です。2008年に起きたリーマンショックと、2011年の東日本大震災。この2つが大きな背景にあります。会津若松市では半導体の大規模工場などが市の経済を牽引してきましたが、世界的不況と震災は地域の活力を大きく減衰させる要因になりました。
ものづくり企業においても、医療分野や再生可能エネルギー分野などは持続的に成長していました。とはいえ「ものづくり企業だけでよいのか」という議論もありました。それがその後、デジタル化を受け入れる素地になったのです。
一方で、会津若松市には1993年に開学した、コンピューター分野を専門とする単科大学、会津大学があります。しかし、その卒業生の受け皿となる就職環境づくりが十分とはいえず、輩出した人材が首都圏へ吸い取られてしまうことも課題でした。
ハードでなくソフトの事業であるサービス産業を伸ばしたい
白岩 震災後、いち早く市内に拠点を構えられたアクセンチュアと、会津大学、そして当市の産官学で復興の方向性について議論した結果、インターネットやスマートフォンといったインフラやハードウェア側の事業ではなく、我々はソフトウェア側の事業であるサービス産業を伸ばしたいとなったのです。
そこで「新産業」と言われるICT関連産業の起こし方を議論することになりました。実証実験の環境整備なども、その1つです。おかげでアクセンチュアだけではなく、ICT関連企業が会津若松に拠点を置いてくれるなどの成果に結び就いています。こうしたことが「スマートシティAiCT」誕生の背景です。
中村 すでに、ビルがあれば企業がやって来る時代ではありません。これからは「そこで何ができるか」がますます重要になります。議論では、拠点を構えることで「何が得られるか」を検討しましたね。第1が先端実証事業、第2が魅力的な人材です。後者は大学との共同研究の機会も含みます。
インターネット社会は「仮想」なので地域や場所を問いません。そして今や、社会全体がデジタルシフトする時代に入っています。しかし、現実世界でデジタルトランスフォーメーション(DX:デジタル変革)を起こすには実証フィールドが不可欠です。たとえば「自動運転」をテストするにも、実際にクルマを走らせる道路が必要だということです。
会津若松市は、日本で最先端のスマートシティプロジェクトを実施し、行政や市民生活のデジタル化に取り組んできました。これが交流人口増加の面で効果が表れ始めています。会津若松市は「通う人が増える」ステージから「定着する人口をいかに増やすか」へと進もうとしています。そうした観点でもAiCTは、企業誘致に有効だと思います。