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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

会津若松の戦略ICTオフィスビル「スマートシティAiCT」、市民交流や観光拠点としても期待【第15回】

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2019年2月28日

鶴ヶ城と同じ瓦は「歴史をつなぎ未来へ託す」決意表明

中村 スマートシティAiCTには、会津若松のシンボルである鶴ヶ城のものと同じ原料で作られた瓦が使われていますね。

八ッ橋 今回、建物に採用した瓦には、会津に受け継がれてきた精神、すなわち「時勢によらず信ずる正義のために誠を尽くす」を表象させました。お城の瓦を加えることで、スマートシティAiCTは先人の皆さんが守ってきた精神をしっかり受け継いできた証であり、未来につなげていくという私達の決意表明でもあるのです。

 実はスマートシティAiCTの土地は、戊辰戦争のときに官軍が押し寄せてきて、会津軍が立ち向かった攻防戦の跡地です。敗北の後に調印させられた場所も、すぐそばです。つまり、近代の新しい会津が出発した場所です。そこに建つAiCTは、二重の意味で「会津の再出発」の象徴なのです。

中村 景観だけではなく、奥深い意味づけがされていたのですね。

 ハードウェアが先行しがちなハコモノ事業には心が入らない。しかしスマートシティAiCTには設計段階から魂が吹き込まれています。大学との連携や人材育成などが先行し、どうしてもハコが必要になってから、ようやく建物を企画した。この順番でプロジェクトを組成したのは会津若松市が初めてでしょう。大勢の方々とたくさん議論しましたね。

白岩 議論を重ねたことで、官と民の関係性が変化しました。地主と店子ではなく「一緒に考えていく」、つまり連携する発想になったのです。これからの行政と企業の関わり方も、本質的にサービス業的なものへと転換していくのではないかと想像しています。

中村 共同発想・共同提案・共同責任です。そして「協働」が、これからのキーワードです。

100%再生可能エネルギーを目指す「RE100」に準拠

中村 ちなみにスマートシティAiCTは、欧米の先進企業では、もはや標準になりつつある「RE100」仕様に準拠しています。RE100は「Renewable Energy 100%」の略で、再生可能エネルギーを100%利用して会社の事業を運営することを目標に掲げる企業の集まりです。

白岩 福島県は以前からCO2削減に積極的に取り組んでいました。国際環境NGO(非政府組織)が手掛け、世界的大企業が続々と参加しているRE100仕様に準拠することは、時代の流れに合致しています。

中村 SDGs(Sustainable Development Goal:持続可能な開発目標)の流れも、それを支援していますね。スマートシティの原点は、市民による行動変革です。ヨーロッパでは参画者が増えていますし、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Appleの4大ITベンダー)クラスの大企業なら、RE100に準拠していないオフィスは借りないとしているくらいです。

 再生可能エネルギーの分野で福島県は、日本をリードする存在になります。RE100準拠のスマートシティAiCTは、その象徴になるでしょう。

中村 週末のスマートシティAiCTは、市の観光のハブとしても機能するのですね。

八ッ橋 そうです。一般的に週末のオフィスは無人です。そこで土・日は駐車場を開放するなどし敷地を使えるようにすれば、観光面でメリットが出てきます。自家用車で訪れる観光客に対し、車はAiCTに駐めて、市内観光はバスで巡回するといったアイデアも出てきています。

中村 「自家用車を駐車して、バスなどで観光する」という手法は、ヨーロッパではすでに採用されています。ですが日本では前例がほとんどない。そうした“前例がないことへの挑戦”について自治体の側では、実現に向けて何が推進力になったのでしょうか?

白岩 前例がない取り組みであっても推進できるのは、市長のリーダーシップあってこそです。ITは成長産業です。“コト”のビジネスを起こし定着するまで、官民を挙げて試行錯誤していきます。

バブル期のIT産業のイメージ壊しスマート化への市民の実感を期待

中村 スマートシティAiCTの建設についても十分に議論を尽くしましたね。

白岩 はい、市としても「地域再生計画」や「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に位置付け、庁内でしっかりと進めてきました。

中村 私自身のライフワークでもありますが、東京一極集中は是正しなければなりません。かつて私が東京にいて「辻褄が合わない」と感じたのは、仲間と「ネットワーク社会だ。第二列島改造論が必要だ」と意気込んでも、その議論に参画するメンバー全員が東京で生活していたことです。ITで産業を誘致するという取り組みは、まさに会津若松市とマッチしました。

 アクセンチュアはスマートシティAiCTの1階に入居します。我々が「大きなビジネス」を手掛けている様子を是非、肌身に感じていただきたいと願っています。

八ッ橋 IT業界は本来、地味な部分も多いのですが、地方都市の市民にとってITといえば、2000年ごろのITバブルのイメージが根強く残っています。東京の六本木や渋谷などの高層ビルに出入りして、華美な消費を繰り広げるといったイメージです。会津若松のような町で地道にコツコツと仕事をしてきた人には想像しにくい業種です。

 市民の皆さんには、AiCTに集積するIT業界の企業活動を実際に見て、接して、世界を動かす「新産業」を感じてほしいと思っています。スマートシティ構想で「会津若松市は変わります」と言われても、これまで実感を持てなかった市民も多かったようです。AiCTで人の流れが変わるのを目にすれば、その理解が深まり、自分や事業にITを活用する構想が、あふれてくるのではないでしょうか。

 AiCTに入居する企業の皆さんには、最大限の敬意と、おもてなしをもってお迎えします。開館前の段階で、交流棟の利用リクエストが多数届き始めています。

白岩 会津若松市のスマートシティプロジェクトの成果の1つとして、スマートシティAiCTは誕生します。市民の方々に見える形であることで理解が深まり、雇用や交流が生まれ、首都圏からの移住も実現します。AiCTを拠点に、さまざまな取り組みを拡大していきたいと考えています。

中村 IT業界側の立場から、これからも期待に応えていきたいと思います。本日はありがとうございました。

写真5:2019年4月に竣工するICTオフィス「スマートシティAiCT(アイクト)」の前で

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。

現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。