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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

地方創生には「地域の経営力」が不可欠、シビックプライドを高め「会津らしさ」のあるスマートシティに【第16回】

地域プロデューサー本田 勝之助 氏との対談

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2019年3月7日

デジタルなプラットフォームが地域コミュニケーションを変える

中村 デジタル技術の利活用におけるハードルは何だと思われますか?

本田 コミュニケーションに問題があると思います。これほどのデジタル社会になったにも関わらず、市民とのコミュニケーションの距離が短くなっていないことを課題視しています。

 家庭、職場、学校、医療現場、行政など、それぞれが完結して閉じているのです。部分最適だけが進んだ状態です。地域コミュニケーションに無関心だったり、声や意見が反映された施策になっていなかったりしているのが実状です。

 ローカルマネジメントを実現させる鍵は、コミュニケーションの促進です。全体最適を考えたマネジメントのために、効果的なプラットフォームを構築することです。このことは包括的なデータ管理の側面でも重要です。

 そうしたプラットフォームを使って、サービスの利用率を高めながら、地域経営の視点や、シビックプライドの醸成の点でコミュニケーションを促進していくことが不可欠です。

中村 具体的には何が必要ですか?

本田 「市民自身が事業の主体者である」と意識付けることでしょう。つまりシビックプライドです。そのうえで大勢が利用しやすいサービスを設計する必要があります。

 雇用の問題においてはやはり、中高生があこがれる会社が地域内にあること、そして保護者たちが「うちの子には是非その会社へ入ってほしい」と思わせるような環境であることが重要だと思います。

 私の子どもたちは会津若松の学校に通っていますが、同級生の保護者からアクセンチュアの名前を聞く頻度が年々上がっています。2019年4月にオープンするICTオフィスビル「スマートシティAiCT」についても、国内外で有力な企業が入居する予定と聞き、保護者の期待も高まっています。

 他の地域や海外の人々から「いいところに住んでいますね」と言われることで、シビックプライドが高まることもまた事実です。そうしたことが実現するには、あと3〜5年で十分でしょう。なぜならここまでの変革を7年でやり遂げたのですから。

地域の自立・自走こそが健全な形、アクセンチュア依存体質にはなるな

本田 先ほど地域課題は共通だと言いましたが、地域の文化を育て、産業を発展させるためのキーになる要素は地域ごとに異なります。会津は「会津らしい分野ですね」と言われる方向性を選ぶでしょう。そのなかで歴史などの文脈が必ず生きてきます。

 会津地域がスマートシティとして世界的に知られるようになったときに、会津らしさがなくなっていたのでは本末転倒です。データ活用やスマートシティの実現においてこそ、アイデンティティや地域のメンタルを忘れないようにしなければなりません。

中村 地域経営においてアクセンチュアには何を期待しますか?

本田 デジタル技術は変化や進化が速く、マーケットも日々変わっています。変化を正しく起こすには、適切な準備期間や助走距離が必要です。しかし、地域社会が変化を起すうえで「見通しを誤らない」ということは、地元メンバーだけでは不可能です。アクセンチュアには、最初の一歩や方向性を間違えずに踏み出すための指針の提示を期待します。

 議題があればすぐに検討会が開かれ、方向性が間違っていないかを議論する。そのためにアクセンチュアを頼るのは妥当だと思います。人は、初めは懐疑的でも、仕組みがうまく回り始めると、手のひらを返して賛成したり協力的になったりします。そうなれば変革は加速していきます。

中村 その際に注意すべき点は何でしょう。

本田 「アクセンチュア依存体質」にならないことです。アクセンチュアの力を借りることは良いし協業も賛成です。部分的には委ねるしかない場面に直面することもあるでしょう。しかし地域のことは「自分たちでやっていくんだ」という自立意識をなくしてはいけません。

 特に、成果が出れば出るほど依存度は高まりやすい。地域の方々は自らを律する気持ちが不可欠です。

 これはアクセンチュアにも理解していただきたいことですが、「地域が自立的に取り組んでいくことのサポート」という関係性を持続しながら、地域の側がガバナンスを保ち自走することが重要です。それが地域経営における健全な形だと私は考えています。

中村 おっしゃる通りです。私たちが提唱する「市民中心」も運営主体が市民自身であることを含んでいます。

 アクセンチュアとしても「ぜひ私たちを利用してください」というスタンスです。上も下なくフラットな関係を保ちながら「これからも利用してください」とメッセージを出し続けます。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。

現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。