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地方創生に向け「地元の大学」の重要性がますます高まる【第17回】

会津大学 理事 産学イノベーションセンター長 岩瀬 次郎 氏との対談

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2019年3月20日

岩瀬 そうですね。産学イノベーションセンターが入居する先端ICT拠点施設「LiCTIA」には、私がセンター長を兼務する復興支援センターも入居しています。両センターで合計6人の専任教員がいます。この規模の大学で産学連携の専任が6人というのは高い比率です。産学連携教員は、産学連携の需要に応じて柔軟に対応できるよう、通常の教員よりも授業や研究の責務を低く設定しています。

 専任者6人のうち4人がICT関連企業の出身であり、実務や研究の経験者です。2人は国からの出向で、うち1人は国の事業の提案企画やマネジメントを担当しています。もう1人は知財の専門家です。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の研究開発においては、知財をどう扱い、どう活用するかが重要です。

 私自身は、産学連携と地域貢献を担当する役員という位置付けですが、現場が好きなタイプなので、さまざまな現場に参画しつつ、特にスケールの大きいプロジェクトでは、自らもプロジェクト管理などを手がけています。

リアルデータを求める研究者との協業が深まる

岩瀬 アクセンチュアには本学が取り組む人材育成において、データサイエンティストの育成で協力いただいています。講座は非常に好評です。

中村 ありがとうございます。アナリティクスやサイバーセキュリティなどの分野はニーズが高まっており、人材不足が懸念されています。旧来のプログラミングスキルを持つ社会人が新しいニーズに適応し、職種転換していくためにも、データサイエンティストの育成に向けた取り組みが必要だと感じていました。

 学生向けのデータサイエンティスト講座も担当させていただいています。単位が取得できるゼミ形式のものを週1回のペースで開いています。

岩瀬 アクセンチュアの講座を選ぶ学生数は、他のゼミよりも多く、人気講座になっています。本学にも統計学の専門家やビッグデータ解析の有識者は在籍していますが、アクセンチュアのエキスパートには実務経験があります。実ビジネスに基づくデータ分析を学べることは学生にとって非常に有意義です。

 こうした連携は研究者にとってもチャンスです。研究者はリアルデータを求めています。昨今は、リアルデータを持つ企業と研究者がタッグを組まなければ前進しない研究分野が非常に増えています。その研究者に付く大学院生などにとってもメリットです。そのテーマで論文を書くことができますから。

 会津大学では英語と日本語を公用語としてドキュメントや論文を英語もしくは日本語と英語の両方で作成します。こうした国際性の高さが、大学ランキングの高評価という結果につながっています。

中村 会津大学の「産学連携クラウド」も、地域貢献として高く評価されています。

岩瀬 現状では、日本に関するデータの多くの部分が海外のデータセンターに保存されています。ヨーロッパでは「データは国内(EU域内)に置く」ことが法制化されました。日本もいずれ追随するでしょう。また日本ではデータセンターが首都圏に集中しており、リスク分散の視点からも是正しなければなりません。

 医療データなどプライバシー度の高いデータは公的な場所にあるべきという議論において、公立大学がクラウドセンターを持っていることは意義のあることです。

中村 クラウドも使い分けが重要ですね。地域ポータルの「会津若松+(プラス)」では、プライバシー度が低い情報はパブリッククラウドでよいと考えていますが、機密情報はセキュアなプライベートクラウド環境が不可欠です。そうしたハイブリッド環境を構築するなど、選択肢をもっていることが、この地域の特色かと思います。

産業振興こそが会津大学の復興支援における役割

中村 ところで震災の以前と以後で、会津大学や岩瀬先生が感じていた課題に変化はありましたか?

岩瀬 震災以前から福島県では、人口流出・産業衰退という日本全国の地方都市に共通する課題に直面していました。そのため私たちもICT分野での産業振興というテーマを意識していました。

 ICTは各産業における基盤です。一方で「ICTでの産業振興」には実感が湧きにくいというジレンマがあります。

中村 ICTのサービスは形がなく目に見えにくいため、つかみどころがない印象を持たれやすいですね。

岩瀬 そうです。そして2011年に震災が起こりました。会津大学は放射線医療に強いとか、原子核工学などの分野を持っている大学ではないため、復興に直接的な貢献ができません。多くの議論を経て「ICTに関連した産業振興こそが、復興において私たちが担当する領域だ」という結論になりました。

 産業振興の根幹は雇用の創出です。ICT産業は常に成長産業として続いてきましたので、私たちが企業と連携することは、福島県の復興のためになると考えています。本学の復興支援センターと産学イノベーションセンターが同一の施設内にあり、その両方のセンター長を私が兼任している理由は、そのためです。

中村 産学連携と復興支援が地続きなのですね。

岩瀬 おっしゃる通りです。会津大学は卒業生の就職率が100%に近い。しかし8割近くは首都圏の企業に就職します。もちろん本学はグローバルレベルで活躍する人材を輩出することを理念としていますので、福島県内での就職を優先的に斡旋しているわけではありません。とはいえ、福島県内に受け皿となる企業が増えれば雇用が生まれ、県内での就職を選ぶ卒業生も増えるでしょう。それによって人材流出と人口減の解消に少しでも貢献できると考えました。

中村 アクセンチュアが会津若松を訪問したのも震災直後の時期でした。

岩瀬 県内は当時、非常な混乱状態にありました。多くの企業から数々の支援をいただきましたが、企業からの支援のCSR(企業の社会的責任)として取り組みである中で、中村さんは「復興のために事業進出を考えている」と言われました。