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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

地方創生に向け「地元の大学」の重要性がますます高まる【第17回】

会津大学 理事 産学イノベーションセンター長 岩瀬 次郎 氏との対談

中村 彰二朗(アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長)
2019年3月20日

アクセンチュアの拠点進出は当初イメージが沸かなかった

 拠点を構え、人を配置することは並大抵のことではありません。私たちとしては正直、期待半分でお話を聞いていたのです。なぜならアクセンチュアはグローバル企業ですし、工業製品の工場などを持っているわけではありません。そのアクセンチュアが会津若松市にオフィスを持つというイメージが、なかなか湧かなかったからです。

 ところが大学正門の向かい側に実際にオフィスを用意し、人材もアサインすると聞いて、その本気度の高さに驚きました。アクセンチュアの大決断に感銘を受けました。

中村 私自身、東北地方の出身ですし、会津若松市に骨を埋める覚悟で福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島=AIF)を設立しました。住民票も会津若松市に移しました。

岩瀬 個人レベルであっても、なかなかできない決断ですね。中村さんやAIFのみなさんはICTの言葉を私たちと同じプロトコルで会話できる方々です。同じ用語・文脈で戦略やプランニングをすぐに共有できるので、いろいろな議論を素早く、かつ濃厚に行えます。

 アクセンチュアは地元企業や行政とも幅広くコーディネーションしているので、具体的な案件が始まり協業が本格化するのに、それほど時間はかからなかったことをよく覚えています。

会津若松のスマートシティプロジェクトは当初から産官学連携

中村 本連載のタイトルは「なぜ会津若松市はデジタル化を受け入れたか」です。会津若松市役所の白岩課長(第15回参照)と岩瀬先生、私の3人で会津若松復興のAs-Is(現状)を調査し、何をすべきかを徹底議論しましたね。議論の翌週には私たちがドキュメント化した「まとめ」を持ってきて再び議論です。

 その過程でICTを活用する復興計画が具体化していきました。会津大学の産学イノベーションと同様に、会津若松スマートシティプロジェクトも最初から行政との連携を前提に発足しています。

 その後、市長を本部長とするスマートシティ推進協議会が発足したとき、岩瀬先生と私はアドバイザーとして参画しました。振り返ってみれば、復興支援という目的と、Howの部分、あるいはツールとしてのICT活用にたどり着いたのは自然な成り行きだったとも思えます。

岩瀬 おっしゃる通りです。スマートシティプロジェクトでは「何を目指すか」を明瞭にしてから進めなければ、結果がぼやけてしまいます。

 「新しいトライアルがある」ことで市民は変化の兆しを感じ、興味を持ち始めます。次にコミュニティがスマートシティ化を受け入れるためには、「自分(市民)の生活がどう変わるのか?」を具体化して提案し、同時に理解を深めることが必要です。

 スマートシティプロジェクトでアクセンチュアは、「コミュニティに浸透する」ための取り組みに尽力していると感じています。

中村 岩瀬先生はご意見番として、ときに鋭く、ときに厳しくご指摘してくださいました。議論を重ねた点が、このプロジェクトの良さだったと思います。

地元企業経営者を巻き込む「AOI(あおい)会議」

中村 会津大学からは「大学発ベンチャー」も非常に増えています。

岩瀬 いわゆる「Iターン」として、卒業生が会津若松市で起業するケースが増加傾向にあります。そうしたベンチャー企業には、大学や市のプロジェクトにパートナーとして参画してもらっています。

 会津若松市の特徴的な取り組みの1つに「会津オープンイノベーション会議(AOI:Aizu Open Innovation会議)」の開催があります。常時10以上の会議が平行して開催されており、合計すると年間300回以上開催されています。

 議論のテーマは多種多様です。具体的なソリューションに結びつくものもあれば、勉強会段階で終わってしまうものもありますが、市民や市内の企業経営者が自発的に取り組んでいることがポイントです。

中村 AOI会議の1つである製造業の生産性向上のプロジェクトでも、その特徴が現れています。「会津コネクテッド・インダストリーズ」の名称で開催している、その会議では、地域の中小製造業の経営者とともにICT活用を議論しています。中小といっても家族経営規模の会社から従業員が数千人規模の大工場までさまざまです。

 企業が単独で大掛かりなプラットフォームを構築してデジタルトランスフォーメーションを実現することは困難ですが、シェアードモデルを作って実現しようと話し合っています。

岩瀬 会津コネクテッド・インダストリーズはいい事例ですね。東京の大企業とは一線を画した、地方都市ならではのスケール感やアプローチ方法だと思います。

中村 会津若松市での取り組みは、日本国内の他都市や、同様の状況にある海外にも適用できるとお考えでしょうか?

岩瀬 適用できると思います。ICTは目に見えません。だからこそ「現場とのつなげ方」がポイントになってきます。その際、大学のような中立の組織が会議のホストを務めることが重要だと思います。

地方大学は実証と実装を繰り返す地方創生の拠点に

中村 地方創生では、その地域の大学の役割が非常に重要です。大学が民間と組んで産業を振興し人材を育成する。会津大学は、会津地域の取り組みになくてはならない存在です。民間だけでもできず、行政だけでもできないことが、大学と連携することで可能になります。

 特にデジタルシフトのような新時代のための変革においては新たな人材が不可欠ですし、改革後を想定した実証実験が必須です。地方大学は、そのための拠点になります。

 「実証から実装へ」というフレーズがありますが、これは不十分な表現だと思います。実証後に実装するのは当然ですが、スマートシティプロジェクトの本質は「実証が終わったら、次の実証が始まる」ことです。常に実証と実装を繰り返すものではないでしょうか。地域が活動を続ける以上、スマートシティプロジェクトは進化し続けるのです。

岩瀬 その通りです。「必要なもの」は次々と出てきます。永続的に「より良くし続ける」ものです。

 会津大学としても優秀な人材を輩出し続けられるように努力していきます。会津地域の競争力の向上に必ずや資するでしょう。ICTオフィス「スマートシティAiCT」ができたことで、学生が在学中にアルバイトをしたり、卒業後にAiCTに入居する企業に就職できたりとプラスのスパイラル効果も期待しています。

 アクセンチュアには産学連携や人材育成における永続的なパートナーとして、これからも力を貸して欲しいと考えています。

中村 ぜひ期待にお応えしたいと思います。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア福島イノベーションセンター センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、国産ERPパッケージベンダー、EC業務パッケージベンダーの経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、地方ITベンダーの高度人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興に向けて設立した福島イノベーションセンターのセンター長に就任した。

現在は、東日本の復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、地方創生プロジェクトに取り組んでいる。