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- 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか
地方創生に向け「地元の大学」の重要性がますます高まる【第17回】
会津大学 理事 産学イノベーションセンター長 岩瀬 次郎 氏との対談
会津若松市に1993年に開学した会津大学は、国内唯一のコンピュータサイエンスの公立大学である。コンピュータサイエンスの研究・教育にとどまらず、産学連携によって産業振興や地域経済に大きく貢献している。同大の岩瀬 次郎 理事はIT関連企業から転身し、同大の産学連携を牽引している。地方創生に向けては、地元大学が果たす役割はますます重要になっていく。岩瀬理事との対談をお届けする。(文中敬称略)
中村 彰二朗(以下、中村) アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長の中村 彰二朗です。岩瀬先生は、会津大学の「産学イノベーションセンター」のセンター長であると同時に「災害復興センター」のセンター長でもあります。産業界との連携や震災復興に向けた取り組みのリーダーであり、会津若松市のデジタル化におけるアカデミアからのブレーンでもあります。岩瀬先生が会津若松市に来られて、もう11年になりますね。
岩瀬 次郎氏(以下、岩瀬) そうですね。会津若松市に来てからは大学の教職員用宿舎で生活していますが、この宿舎も会津大学の特色の1つです。海外から優れた教員を招聘するには、宿舎や福利厚生が整備されていることが不可欠な条件だからです。
会津大学は、日本の公立大学としては教員に占める外国人の割合がトップです。実に教員の4割が海外から招いた教員です。家族で来日される教員もいますので、生活基盤を準備してお迎えしています。
中村 優れた先生方を招聘するには、やはりインフラが大切なのですね。企業誘致の参考になります。
岩瀬 特にコンピュータサイエンスは米国を中心に、海外が先行していた分野ですから、海外から教員や研究者を招くことの重要性は建学前からきちんと認識されていました。初代学長である國井 利泰 先生のグランドデザインや先見性の賜物です。
産学連携は地元行政や地域貢献とセットで考える
中村 会津大学は、学内に産学イノベーションセンターを構えるほど「産学連携」を重視しています。具体的には、どのような取り組みを重視されているのでしょうか。
岩瀬 大学は教育と研究を二本柱とする機関です。一方で、産学連携や地域貢献も、大学がなすべき仕事だと考え、会津大学は、それらを強く推進しています。
ICT分野は他の理工学分野と比べ、大型機械や装置を必要としません。サーバー類は別にしても、PCやワークステーションさえあればプログラミングなどは実行できます。ICTはもともと、産業との結びつきが強い分野ですから、会津大学では積極的に産学連携に取り組んでいるのです。
産学連携においては地域行政との連携も重要です。そのため私たちは「企業との連携」と「行政との連携」をセットでとらえています。たとえば、実用化したいアイデアがある場合、実証実験が不可欠ですが、その実証実験にはフィールドが必要です。会津大学が会津地域を実証フィールドにしたいと考えることは自然な流れです。
とはいえ市内をフィールドにするには、さまざまな調整が必要です。自ずと行政との関わりがキーになります。そのため会津大学の産学連携においては、会津若松市にも最初から関与いただくケースが多いのですが、大学・企業・行政がセットであることは、いわばデフォルト設定なのです。
中村 一口に「連携する企業」といっても、東京に本社がある大企業から、会津地域の地元企業まで、さまざまだと思います。両者に違いはありますか?
岩瀬 共同研究などのお話をいただく際に区別することはありません。大切なのは事業や連携が成功することです。
傾向としては、首都圏の大企業からの相談が多いですね。しかし大手IT企業と私たちが協業する際は、なるべく地元企業にもチームの一員として参画していただくようにしています。たとえば「ソフトウェア開発のこの部分は、会津若松市内のこの企業が強みを持っている」というような形でマッチングを図ることで、地場産業が広がることを意識しています。
中村 産学イノベーションセンターは地域にとっても重要な役割を担っているんですね。