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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

「日本型スマートシティ」の鍵を握るアーキテクチャーの構築と標準化【第23回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2019年11月21日

アーキテクチャーの鍵は「連携」にあり

 そうした知見・経験・実績から言えることは、これからの日本に求められるスマートシティアーキテクチャーの鍵は「連携」だということだ。連携には、分野間の連携と都市間の連携がある。

分野間の連携

 国内外には、エネルギーに特化したスマートシティや、防災に特化したスマートシティなど、分野限定の取り組みが多数ある。しかし、市民の暮らしは多岐に渡り特定の機能/サービスだけでは成り立たない。分野連携を進めることで、市民生活が便利になる。

 たとえば、会津若松市では、市の公用車に搭載されている加速度センサーのデータと、警察が持っている交通事故のデータを掛け合わせることで、危険度が高い「ヒヤリハット」地点が見える化できるという取り組みが実施されている。

 今後ヘルスケア分野で、食のデータと通常の生活データ、そして医療受診データの組み合わせが実現すれば、個々人の健康データの分析精度の向上が期待できる。予防医療の進展にも寄与するだろう。

 このように個人のIDで統合された異分野の横断データこそが地域経営のためのディープデータである。スマートシティに取り組む意義が、ここにある。

都市間の連携

 優れた先行事例を日本各地で活用可能にするのが都市間連携だ。自治体ごとに異なる行政システムは、その運用・更新などに多大な予算と時間がかかっている。都市間が連携し拡張性のあるスマートシティが実現すれば、自治体は効率よく行政サービスを提供できるようになる。

 市民にとっても、他の自治体へ引っ越した際も煩雑な手続きなしに、自身に関するデータを新たな行政に容易に移管でき、同レベルの行政サービスを受けられる。

 会津若松市の市民向けコミュニケーションポータル会津若松+も都市間連携を想定して開発されている。たとえば奈良県橿原市では、会津若松+が利用しているクラウド上の基盤システムを利用することで、同市のコミュケーションポータル「かしはら+」を3カ月で立ち上げ、市民とのコミュニケーションに関わるサービスを迅速かつ効率よく導入した。

 会津若松+での市民のデータ連携はまだ未対応ではあるが、橿原市のケースは、パッケージソフトウェアなどを使った「横展開」とは異なる。「適用領域・地域の拡大」とも言える都市間連携の一例である。

世界の知見を集めながら「日本型スマートシティ」を描く

 日本型スマートシティは、いくつかの実証事業が終了し、まさにこれから具体的に実装していくものであり、経験者は多くない。それだけに、会津若松市で養ってきた我々の経験を、より多くの地域が活用できるようスマートシティアーキテクチャーの整備に取り組んでいる。市民の考えを引き出す方法論や、参加率を高める方法、地域行政の課題の理解、地域産業の実状の正確な把握、政策議論やテクノロジーまで、貢献できるであろう領域は幅広い。

 一方で世界的にはSDGs(持続的開発目標)への取り組みが進んでおり、その“出口”にスマートシティが位置付けられている。国連のSDGs、日本政府の地方創生、経団連などの「Society 5.0」、世界的な事業領域の潮流としての「Industry 4.0」などが、それぞれに共通項を持ったアジェンダだ。いずれもがスマートシティの実現へ結び付いている。

 アクセンチュアは世界の約80都市でスマートシティ関連プロジェクトに関与しており、海外の知見を日本に取り入れる窓口としての機能もある。たとえば、スマートシティで世界をリードするアムステルダム市は、2008年頃から交通・エネルギー・資源・環境・犯罪対策などの分野で数々のプロジェクトを進めている。2013年には会津若松市とも提携した。

 エストニアは、デジタルガバメントの取り組みにおける世界最先端とされ、その取り組みは日本政府も参考にしている。同国のタリン工科大学は会津大学とIT活用やソーシャルサイエンス領域での提携をスタートしている。

 現在のアクセンチュアの役割は、こうした海外との橋渡し役を担いつつ、世界中の知見の収集、国内におけるアーキテクトの育成や政策の議論、実装までを手がけ「日本型スマートシティ」の実現を推進することにある。そこには、SIPにおけるスマートシティアーキテクチャーの確立は何としても成功させ、将来の日本社会の礎とする使命がある。

 次回は、会津地域で進行中の実証実験について解説する。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。

現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。