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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

「日本型スマートシティ」の鍵を握るアーキテクチャーの構築と標準化【第23回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2019年11月21日

「市民参加率」の向上と「標準化」の視点が不可欠

 アクセンチュアは2011年から、会津若松市とともにデジタル変革を推し進めてきた。そこでは「市民中心」「地域主導」の考え方を根幹に据え、「市民参加率」を重視した取り組みを進めている。

 たとえば会津若松市で2015年12月から運用している行政と市民のコミュニケーションポータル「会津若松+(プラス)、第9回参照」は現在、市民利用率が20%にまで高まっている。それは、従来の広報誌や公聴会を中心としたコミュニケーションの利用率を上回る。市民生活への、さらなる浸透を目指している。

 日本に適したスマートシティ実現するには、日本固有の状況や事情に最適なアプローチを模索する必要がある。未来志向の新しい“まちづくり”の具体的方法論ともいえる「日本型スマートシティ構想」としては、特定の地域に閉じることなく、標準化の視点からで自治体間の広域連携、つまり全国規模での連携による効率化が必要だ。

 現在、世界中でスマートシティの取り組みが進行している。人口減社会の日本においても、産業振興や経済発展を実現し、市民一人ひとりの生活に幅広く対応するサービスを実現するためには、標準化は必須事項だと言える。

アーキテクチャーは「デジタル層」と「アナログ層」に2分

 こうした日本型スマートシティの“ひな形”ともいえる「標準モデル」を策定する事業が、冒頭で紹介した内閣府のSIPの「第2期/ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術におけるアーキテクチャ構築及び実証研究」なのだ。同事業では、いわば日本型スマートシティ共通の「設計図」が描かれ、日本全国での導入の際に参照されることになる。

 同事業で策定するスマートシティのアーキテクチャーは大きく「デジタル層」と「アナログ層」の2つに分かれている(図1)。

図1:SIPの「スマートシティ・アーキテクチャ」における構成要素の概要(出所:NEDO 「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期ビッグデータ・AI を活用したサイバー空間基盤技術におけるアーキテクチャ構築及び実証研究」公募要領におけるSociety 5.0リファレンスアーキテクチャ図)

 一般に「スマートシティのアーキテクチャー」と聞いて想起しやすいのはデジタル層だろう。UI(ユーザーインタフェース)/UX(ユーザーエクスペリエンス)や、認証方法、デジタル基盤、データ収集基盤など、いわゆるITに関わる領域である。これらを総称し「都市OS」とも呼ぶ。

 一方のアナログ層は、ルールやモデル、方法論、各種の決め事・手続きなどだ。モデルのあり方が、地域主導か企業主導か、あるいは自治体主導なのかによってデータの提供・収集方法がオプトインかオプトアウトかが変化する。こうしたレイヤーがアナログ層に含まる。

 SIPにおけるアクセンチュアの役割は、スマートシティのアーキテクチャー全体を取りまとめるアーキテクト(設計者)である。戦略・政策や組織のあり方、ルール、民間との連携などで、どのように対応していくべきか、アナログ層を検討・定義する。その運用のベースとなる都市OSに求められる機能・要件や、データの扱いや連携方法、セキュリティの取り扱いについても定義づけ、標準モデルとして提案する。

 ここに、本連載で紹介してきたように、会津若松市で8年にわたって蓄積してきた地方経営についての知見や、データ標準化に関する経験、そしてなによりも市民主導による産学民官連携の実績を活用し組み込んでいく。