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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

「各種サービス×都市OS」の機能連携を会津で実証研究する理由【第24回】

〜データに基づく市民中心のスマートシティの実像〜

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2019年12月19日

会津若松+のID認証連携とデータ連携の機能を強化し3つのサービスを追加

 4社共同の実証実験では、アクセンチュアが会津若松+を強化し、ID認証連携とデータ連携の機能を実装したうえで、3つのサービスを追加する。(1)地域QR決済アプリケーションの「会津財布(ウォレット)」(TIS)、(2)ヘルスケアサービスアプリ(ARISE analytics)、(3)オンライン行政手続きサービス(アスコエパートナーズ)である(図1)。各サービスの概要を紹介する。

図1:「機能連携の実証研究」において会津若松+に3つのサービスを追加する

(1)医療費支払いを電子化する「会津財布(ウォレット)」

 TISと共同開発した「会津財布(ウォレット)」は、会津若松+のIDを活用する電子決済のためのアプリケーションである。決済基盤にはTISが小売業向けに展開する決済サービス基盤「ペイシェルジュ」を採用。決済手段としてはFintechベンチャーOrigamiが提供する金融決済サービス「Origami Network」と地場の会津信用金庫が連携する。

 電子決済の実証には竹田綜合病院の協力を得て「医療費支払いのキャッシュレス決済」目的に実施する。将来的には医療費だけでなく、行政手続きで発生する支払いや、市内のデジタルキャッシュ取り扱い全店で利用できる仕組みの構築を目指す。

 キャッシュレス決済手段としては今、さまざまなサービスが乱立し、各事業者へデータが分散している。会津財布では、1つのIDの下に決済手段を1つにまとめることで、利用者である市民の決済手段を各自のスマホで一元的に管理したり、状況に合わせて使い分けしたりといった使い方を可能にする。地域に貯まる購買履歴情報は、各領域を横断する形で統合分析され“3方良し”のモデルをもって、まちづくりに生かす。

(2)市民が自らの健康データを可視化し健康増進や予防医療につなげる

 ARISE analyticsが実証研究するのは、市民が自らの健康診断結果などを可視化でき、生活習慣病の発症を未然に防ぐ「予防医療」に貢献するサービスである。行政が持つヘルスケアデータやウェアラブルデバイスのデータなどを活用し、市民が自らの健康状態や生活習慣を把握しやすくする。

 予防医療の浸透は、市民の健康意識を向上させるなど行動改革に効果がある。結果として健康増進はもちろん、医療費の適正化につながるなど行政側にも大きなメリットを生む。キーになるのは「セキュアなデータ連携」と「市民自身の同意によるデータ提供(オプトイン)」の2つであり、都市OSとの連携を通じて検証していく。

 本実証研究においては、名古屋大学医学部発の医療系スタートアップ企業PREVENTの協力も得る。

(3)市民が自身のデータを“おまとめ”し行政手続きを簡便化

 アスコエパートナーズは、会津若松+を基盤に会津若松市のさらなるデジタルガバメントの推進を支援する。同社は全国で、育児や高齢者支援、災害対策など、さまざまな行政サービス情報のデータベース構築などに取り組んでいる。

 市民が行政手続きをする際には、多種多様な申請書が必要だ。しかも申請内容によって書類の書式が異なるだけでなく、「氏名を書く欄」1つをとっても項目名が異なっていたりする。児童手当の申請では「受給者」、一時保育の申請は「保護者」、乳幼児医療関係書類が「申請者」といった具合である。

 こうした項目名の差異が行政手続きを複雑にしている。アスコエパートナーズが取得した特許を活用した「ペルソナリンク」は、これらの差異を解消する仕組みだ。市民の個人情報を、個々人を表現する「ペルソナ」として連携可能なデータとして持てるようにすることで、書類の書式が異なっていても同じ意味のデータは1度の操作で一括入力できるようにする。

 このサービスは市民の利便性はもちろん、行政の窓口担当者の業務効率も改善する。こうした仕組みをアスコエパートナーズは「行政サービスOS」と呼び、民と官が共に進める行政サービスのスマート化、すなわち「スマートパブリックの実現」を提唱している。