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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

「市民中心モデル」のスマートシティ実現における大学の役割(前編)【第28回】

会津大学 学長 兼 理事長・教授 宮崎 敏明 氏に聞く

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2020年5月21日

 さらに最近は、会津大学の学生が創業したベンチャー企業と大手企業の協業が進み始めました。「1社に閉じて何でもやる型」の垂直統合は20世紀に機能した成功モデルですが、スマートシティプロジェクトでは「役割分担と協働」が何より重要です。オープンでフラットな関係で、コラボレーションすることが21世紀モデルの価値観でしょう。

 たとえばスマートシティプラットフォーム(都市OS)の構築と運営はアクセンチュアや大手IT企業が担当しつつ、移動・交通(MaaS:Mobility as a Service)のサービスはベンチャーのA社、農業×ITのサービスはB社、医療や福祉のサービスなC社といった分担が会津では進んでいます。

学生が奮起するような刺激的な環境の提供が必要

宮崎  近年、全国的に「学生がおとなしい」と言われていますが、会津大学は、学生数に対する大学発ベンチャー数は公立大学でトップです。

 本学では、学生たちのアントレプレナーシップ(起業家精神)を刺激するべく、会津大学では米シリコンバレーや中国のハイテク企業集積地である大連や深圳へ学生を送り出し、現地の起業家や学生との交流をうながしています。

 そうしたインターンシップ体験を経て帰国した学生は急成長し、顔つきも変わりますね。海外の同世代の方々と自分たちを比べて「こんなに差があったのか」と実感するからです。

 学生の能力自体が海外と比べて劣っているわけではありません。私たち大学関係者が学生に良い刺激を与えられていないのです。学生が奮起するような刺激的な環境を大学はもっと提供していく必要性を感じます。「尖った技術をアピールできる学生」や「主張やアイデアをしっかり語れる学生」を育成したいと考えています。

中村  アクセンチュアに入社した会津大学卒業生を見ても、彼らの要素技術のレベルは非常に高く、短期間のうちに第一線で活躍できる人材に成長しています。会津大学の教育方針は、ICT人材育成の観点で本当に正しいのだと実感します。加えて、「ワクワクできる仕事をしたい」というマインドの学生が多いですね。

宮崎  ありがとうございます。スーパーグローバル大学に認定されて以降、「仲間と共創する環境」の整備には特に注力してきました。これからも伸ばしていきたい領域です。

中村  対談の後半では、会津大学ならではの地域連携のほか、会津大学とアクセンチュアによる最新の共同プロジェクトとその意義などについてお聞きします。

中村 彰二朗(なかむら・しょうじろう)

アクセンチュア アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長。1986年よりUNIX上でのアプリケーション開発に従事し、オープン系ERPや、ECソリューション、開発生産性向上のためのフレームワーク策定および各事業の経営に関わる。その後、政府自治体システムのオープン化と、高度IT人材育成や地方自治体アプリケーションシェアモデルを提唱し全国へ啓発。2011年1月アクセンチュア入社。「3.11」以降、福島県の復興と産業振興による雇用創出に向けて設立した福島イノベーションセンター(現アクセンチュア・イノベーションセンター福島)のセンター長に就任した。

現在は、震災復興および地方創生を実現するため、首都圏一極集中からの機能分散配置を提唱し、会津若松市をデジタルトランスフォーメンション実証の場に位置づけ先端企業集積を実現。会津で実証したモデルを「地域主導型スマートシティプラットフォーム(都市OS)」として他地域へ展開し、各地の地方創生プロジェクトに取り組んでいる。