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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

「市民中心モデル」のスマートシティ実現における大学の役割(前編)【第28回】

会津大学 学長 兼 理事長・教授 宮崎 敏明 氏に聞く

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2020年5月21日

平凡学生200人より1人の異才を輩出し世界に貢献

中村  会津大学は建学時から、外国人教員の割合が4割以上という国際色の強い大学でした。ICTに特化した大学として、異彩を放つ学生を育成しており、尖った人材の登場を社会全体が期待しています。私自身も会津大学との交流では常にワクワクしています。

宮崎  「200人の平凡な学生を輩出するよりも、社会変革を牽引する強烈な才能と個性を持った1人の学生を育成し大きく世界に貢献していこう」との想いで全学生の指導に臨んでいます。本学のあらゆる学生に社会で活躍してほしいというのが願いです。

中村  そのために、3年次への進級条件を厳しくしたそうですね。

宮崎  はい。3年次への進級条件として、一定の単位数を取ることと、英語で一定の成績を収めることを制度化しました。2年から3年に上がるタイミングに、学生には「自分が本当にやりたいことは何か?」「自分は会津大学で何を学ぶべきか?」を改めて真剣に考えてほしいからです。

 人生は1度きりです。自分の人生を自ら切り開いてほしい。そうした自分のライフプランと向き合う機会になると考え進級条件を設けました。

 とはいえ会津大学の学生の基礎能力は高いと自負しています。さまざまな理由から留年する学生が若干名はいますが、英語の成績が原因で留年した学生は今のところ1人もいません。留年した学生に対しても、教員や学生課職員が個別に対応する形で、手厚くケアしています。

実用化を強く意識した研究開発を牽引する

中村  ICT特化の大学として、社会からのニーズは非常に大きいと思います。会津大学は、どのようなアプローチで社会貢献を進めますか?

宮崎  成果を見える化し、大学の取り組みを世の中へしっかりとアピールしていくことが重要だと考えています。

 一般的に「大学は研究機関なので、市民から縁遠い場所」と思われがちです。しかしICTは「人に使われ、役に立ってこそ存在意義がある」ものです。しかも、スマートシティは「市民中心」の取り組みです。技術をどんどん社会にオープンにし、フィードバックを得るサイクルを回すことが必須だといえます。従って、実用化を強く意識した研究開発を牽引していきます。

 具体的には、学生が手作りのプロトタイプを持って市民の間に入り、実際に動かしてみたり触ってもらったりします。会津地域は「都市部の混雑エリアがある」「すぐ近隣に郊外型の地域がある」「そのすぐ先に典型的な地方型の過疎地域がある」という3つの面を持つ日本の縮図のような土地柄です。この特性は、町そのものを実証フィールドとして活用する点で非常に有利です。

 実践力のある学生が市民とコラボレーションして取り組むことで、会津で生まれた成果を日本中や世界へと発信できると思います。

 その際、外部組織との連携も重要です。開かれた大学であるためにも、行政や企業をどんどん巻き込みながら形にしていくことが望ましいと考えています。「会津大学は面白いことをやっている大学だ」と広く理解されたいと願っています。

中村  計画・企画のフェーズでは、会津大学が主催する「会津オープンイノベーション会議」、通称「AOI(あおい)会議」もあります(第17回参照。「葵(会津葵)」は藩主松平家の紋どころ)。プロジェクト化以前のテーマはAOI会議に持ち込まれてディスカッションし、方向性を見定めてからプロジェクト化する。会津大学が主導する「場」として、行政や企業、市民による新しいエコシステムを実現しています。

 宮崎先生が言われるようにスマートシティは「市民中心」が基本です。私はアクセンチュアという企業の社員である以前に会津若松市民です。優先すべきは「市民」としての立ち位置であり、市民として必要なサービスを考え、そのサービスを実現するために「各企業は何をすべきか?」を考えるようにしなければならないと考えています。