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  • 会津若松市はデジタル化をなぜ受け入れたのか

「市民中心モデル」のスマートシティ実現における大学の役割(後編)【第29回】

会津大学 学長 兼 理事長・教授 宮崎 敏明 氏に聞く

中村 彰二朗(アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター長)
2020年6月18日

オープンデータは学生にとって「究極の教材」

中村  私たちが生きている現代は、まさに時代の節目ですね。真の市民主導とボトムアップ型の社会の実現が、本当に手の届きそうなところまできています。

 会津若松市のオープンデータが活用されれば、学生はテストデータよりもはるかに現実味のある実験ができます。成功モデルが生まれ、それが日本中に伝播していくことが望ましいと考えています。

宮崎  そうですね。学生にはアプリやサービスの開発にどんどん参加してほしい。プラットフォーム自体にも興味を持ち、そこに携わる学生が出てくることも期待しています。

 インタフェース開発は、1つの入口です。インターネットの奥深さを知り、5Gのさらに先、6Gのインフラやセキュリティにも興味の幅を広げてほしい。オープンデータや標準APIリファレンスサイトに触れられることは、まさに実地学習であり、究極の教材です。

中村  公立大学である会津大学には、地域貢献の役割も強く求められています。会津大学と地域の関係性については、どのようにお考えでしょう。また、どのような活動に取り組んでおられますか。

宮崎  東日本大震災が大きな転換点になりました。会津地域の物理的被害は限定的でしたが、大学としては授業開始を遅らせざるを得ないなど、さまざまな工夫が必要でした。

 そうした状況下で、アクセンチュアが大学の正面に、いち早くオフィスを構えてくださった。非常に感激したことを鮮烈に憶えています。その後、データアナリティクス教育の寄附講座を提供いただいたことなどもあり、感謝は尽きません。

 地域との関係性については、会津若松市と大学が提携し、疲弊した福島県をICTを活用して支えようという動きが起こりました。これが復興支援センターや会津大学先端ICTラボ(LICTiA)などの発足につながっています。

 市内をフィールドとする最近の具体的な取り組みとしては、M2M(Machine To Machine)の検証などがあります。市内各所にセンサーを取り付けたIoT(Internet of Things:モノのインターネット)の実証実験や、路線バスにGPS(全地球測位システム)装置を設置しロケーション(位置)データを取る施策などを実施しました。

「作って終わり」ではなく「市民が使えるサービス」を作る

中村  前編でも少し触れましたが、会津地域はコンパクトな都市です。会津若松市の人口は約12万人で、ちょうど日本の人口の1000分の1。都心から郊外、山林部までがある日本全体の縮図だといえる町だと思います。「モデル」として最適な場所です。

宮崎  さらに、市長をリーダに、町を挙げてスマートシティの取り組みを推進しているため、行政の協力も幅広く受けられます。企業立地の都合だけならば、首都圏の方が先端ICTの実証実験に適しているように考えられがちです。ですが実際には、関係各所の管轄や利害が複雑に入り組んでいて、実験の許可を得るだけでも非常にハードルが高い。会津は実証実験にちょうどいいサイズですね。

 そして何より大切なことは、「実際に市民に使われるサービスを作っている」という点です。作って終わりにしては絶対にいけません。

 会津大学が関わった市民向けのサービスアプリケーションの1つに「除雪ナビ(除雪車運行システム)」があります。冬季に活躍する道路除雪車にGPS装置をつけることで、市民は自分のスマホを使って除雪車の現在位置を見て、自宅前の道路が、いつ除雪される見込みかが分かるようにしました。市役所に電話で問い合わせる必要がなくなり、雪深い会津では非常に便利です。

 学生が1日で作成した消火栓の位置を地図上に表示するスマホアプリも消防関係者には好評です。市内にある消火栓の位置を熟知している消防士でも、冬季になり周囲全体が雪に覆われた火災現場では、目当ての消火栓を見つけるのが大変だからです。

 現在進行中の取り組みとしては、クマの出現を報告するアプリケーションの開発があります。AI(人工知能)を使ってクマを識別し、出没が確認されたら速やかに警報を出す仕組みの事業化を、福島県や喜多方市などを交えて目指しています。クマ被害は農業や交通はもちろん、市民生活の安全性にも影響するだけに実用化が期待されています。