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- Industrial IoTが求めるシカケの裏側
測定環境での事前の帯域測定とペイロードデザインが重要【第5回】
ファストデータの遠隔収集の課題解決(その3)
アベレージ帯域を有効活用した欠損回収処理が必要
ヨーロッパにおける非常に厳しい通信環境の事例を紹介する。図4はヨーロッパの陸路を複数の国境をまたいでデータ収集した際のGPSデータ(1秒毎のデータプロット)の欠損補完を反映していないマッピングサンプルである。
このルートでは、スイスからオーストリアをまたいでドイツへ移動する。国境をまたぐ前後で複数回ローミングが発生している。ローミングのタイミングで数分間の通信欠損が発生するため、GPSのプロットが飛んでいる箇所(線状態のエリア)が数カ所発生している。
図5は、その時のゲートウェイ側の電波強度とサーバー側でのデータ受信状態をモニタリングしたものだ。ローミング欠損時には全く電波をつかめておらず、当然データがサーバー上がってきていない。そして再度接続を確立した直後に欠損回収処理が走っていることがわかる。
こうした環境においては、限られた平均帯域を使って欠損回収処理を実行するために、送信データセットに優先順位を付けてそぎ落としたペイロードデザインが非常に重要になる。そこでは、送信するペイロードデータに対するデータフィルタリングの実装が必要だ。
帯域が限られればデータフィルタを実装する
データフィルタは、限られたモバイル通信帯域しか得られないと想定される地域でのデータ収集においては不可欠な要素になる。実際に上記のヨーロッパの事例では、ローミングに加え、ヨーロッパ郊外広域での通信方式は2Gと3Gが断続的に切り替わるような状態だった。そのため予測平均帯域をかなりコンサバティブ(100kbps程度)に定め、次のデータフィルタリングを行った。
- CANデータはプライオリティを決めたID種に取捨選択し、20種程度だけを送信する
- さらに100Hz程度のCANデータを10Hz程度にリサンプリングして送信する
このデータフィルタリングにより、全計測データとしては設定したデータ回収目的に対し100%の回収が実現できた。
アベレージ帯域を有効活用したデータ回収を可能にするための対策は、以下のようにまとめられる。
- 全体での平均帯域を調査し策定する
- データ量が平均帯域に収まるよう、必要な送信フィルタ処理を施す
- 帯域不足やローミングなどで発生する通信欠損で送信できないデータに対しては、帯域が確保できるときに再送信する欠損回収処理を施す
坂元 淳一(さかもと・じゅんいち)
アプトポッド代表取締役。大手外資系ソフトウェアベンダーのプロダクトマーケティングなどを経て2006年にアプトポッドを設立。コンサルティグ、ソフトウェア開発などを中心に、エネルギーやモビリティ、スマートシティなどの社会実証事業やPoCプロジェクトに従事。2013年よりM2M/IoTのファストデータ処理に特化したエンドツーエンドの汎用フレームワークとクラウドサービスを自社製品として提供を始め、自動車分野やロボティクス分野など、産業機械製品のコネクテッド化を推進する事業を展開している。