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自動車の制御/センサーデータをどう収集するか【第3回】
ファストデータの遠隔データ収集の課題解決(その1)
前回は、Remote Data Acquisition(遠隔データ収集)のメリットと課題について整理した。今回は、特にモバイルネットワークを介した遠隔データ収集におけるさまざまな課題の解決について、自動車の制御/センサーデータの回収をユースケースに解説する。
Remote Data Acquisition(遠隔データ収集)の例とする自動車計測の前提条件を整理すると、(1)自動車の通信バスであるCAN(Controller Area Network)や各種センサーからのデータ、つまりミリ秒オーダーのデータが複数種類発生する、(2)主に移動体からのデータ回収が目的になるため、モバイルネットワーク網を利用してデータを転送する、などが条件になる。
モバイルネットワークを利用する場合は、地域や時間によって帯域がロバストするため、予定していたデータ流量をさばけない可能性がある。電波環境やキャリア事情によって通信の切断も発生する。こうした条件下においては、さまざまな点を考慮してシステムを組み上げる必要がある。
考慮点1:タイムスタンプ処理
第1の考慮点は、タイムスタンプ処理である。CANデータやセンサーデータなどの信号データには、基本的にタイムスタンプという概念がない。発生順に時系列に出力される、これら信号データに対し、車載ゲートウェイでは、ある意味サンプリングを行い、タイムスタンプを付与しなければならない(図1)。タイムスタンプ処理は、データ回収時の欠損回収や順番保証などの礎になる。
図1のように、車載ゲートウェイには複数のデータソースが流入する。だがタイムスタンプ処理は、統合的なプロセスで一元的に実行する。これにより、制御/センサーネットワークの信号を一定軸の時系列で処理できる。その際、時間ソースをどうするかも課題になる。時間ソースとしては、次のようなものが挙げられる。
- 車載ゲートウェイの内部クロック
- NTP(Network Time Protocol)サーバー
- GPS(全地球測位システム)の時間
このうち、車載ゲートウェイの内部クロックに頼り切ってデータに絶対時刻を付した場合、クロック用の電池が切れてしまったり、ハードウェアトラブルなどが発生したりすると、時刻がずれてしまうケースが発生しうる。タイムスタンプ付与は車載ゲートウェイでしか行えないだけに、ここで絶対時刻が狂ってしまうとサーバー側では、もはや、いつのデータか判別できなくなる。
NTPやGPSの時刻に依存する場合も、それぞれ電波環境に左右されるため、いつでも取得できるとは限らない。筆者が選択しているアプローチは、以下のような多重対策を講じながら打刻を管理している。
(1)内部クロックはNTPで常に補正
(2)内部クロックをベースに相対時刻を打刻しサーバーへ送信
(3)計測中に、内部クロック、NTP、GPSのプライオリティ順で、正しい時刻を取得できた時点で、基準時刻として取得時間(絶対時刻)をサーバーへ送信
(4)最悪すべての時間ソースが正常に取得できない場合はサーバーの受信時刻を基準時刻とする
(5)サーバー側で基準時刻を基に全データに絶対時刻を付与
タイムスタンプ処理ができていればデータの順番保証も担保される。