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測定環境での事前の帯域測定とペイロードデザインが重要【第5回】

ファストデータの遠隔収集の課題解決(その3)

坂元 淳一(アプトポッド代表取締役)
2018年9月5日

前回、伝送データの基本的なペイロード設計と必要帯域の想定について解説してきた。実際の移動体計測、特に海外における計測では、その地域において、どの程度の上り帯域を確保できるかが最大のポイントになる。回収したい計測データの伝送に必要な帯域に対して、十分な上り実帯域が確保できない場合は、データに優先度をつけるフィルタ処理も必要になってくる。今回は、こうした考慮点などについて事例を挙げて解説する。

 モバイル伝送を使って移動体のデータを遠隔収集する場合、同じ地域でも通信キャリアや通信方式によって、得られる帯域が大きく異なる。そのため、次のような前提条件を事前に確認しなければならない。


    前提条件1:地域での通信キャリアのカバレッジ
    前提条件1:通信方式
    前提条件1:ターゲットの通信方式に対応した通信契約とSIM、通信モジュール

前提条件1:地域での通信キャリアのカバレッジ

 通信キャリアのカバレッジを確認する際は、各キャリアのカバレッジマップが参考になる。参考までに筆者は、英OpenSignalが提供する通信カバレッジマップサービス「OpenSignal」などを併用している。

 OpenSignalは、ユーザー参加型による帯域測定情報を提供するグローバルマップだ。キャリア別、通信方式(2G/3G/ LTE)別に、ある程度のカバレッジを確認できる。“当たりをつける”意味でキャリア選択やターゲットになる通信方式を定めるのに便利である。

前提条件2:通信方式

 通信方式によって確保できる帯域は大きく異なる。特に欧州や米国などで広域に移動体計測を実施する場合は、都市部ではLTEで通信できても、郊外になると3Gあるいは2Gでしか通信できない、さらには通信自体できないエリアが断続するといったケースが発生する。

 こうしたケースでも、たとえば都市部を中心とした移動体計測の場合は、欠損回収処理を実装することで、郊外で送信し切れなかったデータを都市部に入った際に回収するといったリカバリーシナリオを描くことができる(欠損回収処理については、第3回の【考慮点2:データの欠損回収処理】を参照)。

前提条件3:ターゲットの通信方式に対応した通信契約とSIM、通信モジュール

 一方で、契約したSIMやゲートウェイに使用する通信モジュールが起因して期待通りの通信方式や帯域を確保できないケースもある。筆者も、以下のような事象を経験済みだ。

・日本の通信キャリアと契約しているLTE回線のSIMを国際ローミングで使ったら現地では3G方式でしか使えなかった
・通信モジュールが現地のLTE通信方式に対応しておらず、期待したスループットがでない

実測の前に実帯域を測定する

 移動体計測では、上述した前提条件を踏まえたうえで準備し、実帯域の測定と推定を実測の前に実施することをお勧めする。

 筆者は、計測プロジェクトにおいては、実際に使用するゲートウェイシステムに帯域測定ツールなどを使用して実帯域を計測する。帯域測定ツールとしては「iperf」などを使用することで比較的容易に測定できる。

 モバイル網の通信では、その帯域幅は移動とともにかなり変動する。iperfは本来、移動を停止した状態で計測すべき手法ではあるが、移動しながらの計測を割り切って実施している。局所的な帯域確認ではなく、移動体としてのアベレージを計測することが目的だからだ。

 いくつかの事例を紹介しよう。図1は、東名高速道路において広域に車両で移動しながらiperfで実帯域を計測した際の例である。

図1:東名高速道路において広域に車両で移動しながら計測した実帯域の例