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  • デジタルシフトに取り組むためのソフトウェア開発の新常識

デジタルシフトにむけた企業とITベンダーの関係は“アジャイル”でこそ成立する【第4回】

梶原 稔尚(スタイルズ代表取締役)
2018年12月26日

アジャイル開発における組織と役割は明確に定められている

 アジャイル開発に対しては、ウォーターフォール型の開発に比べ、非常に自由なイメージがあるようです。しかし実際には、チームの規律が重視され、そこで果たすべき役割が明確に定められています。たとえば(1)プロダクトオーナー、(2)スクラムマスター、(3)チームなどです。

(1)プロダクトオーナー

 開発するプロダクトに対する最終決定権と責任を持ち、製品価値の最大化のために正しい決定を下す。チームに製品のビジョンを伝え、製品の優先順位リストである「プロダクトバックログ」を目に見える形で最新に保ち、スクラム全体をリードする。

(2)スクラムマスター

 チームをゴール達成へ導くためにチームの自律的な行動を引き出し、チームの生産性を高めるために障害物を取り除く。指示命令型よりもファシリテーター型でなければならない。

(3)チーム

 開発に携わるすべての人のこと。通常は7~8人前後が適切な規模とされる。これに対し、ウォーターフォール型開発では、担当工程別に、概要設計者や詳細設計者、実装者、テスターといった役割が決まっている。

 これらの役割の中で、アジャイルにおいて最も重要なのがプロダクトオーナーです(図2)。システム開発の視点だけからみれば、プロダクトオーナーは「開発チームに要求を出すだけの人」と誤解されがちです。ですが実際のプロダクトオーナーは、新しいビジネスを開発するためのリーダーでなければなりません。

図2:プロダクトオーナーを中心とした組織を構成する

 筆者の経験では、プロダクトオーナーには現業部門で優秀かつ意欲的な人がアサインされるものの、現業部門の業務を担当させたまま新規事業開発に携わらせてしまうケースが見られます。その方が優秀であればあるほど、現業に忙殺され、Scrumの会議に参加できなくなり、プロジェクト自体が停滞してしまうことが少なくありません。

 Scrumでは「プロダクトオーナーはスクラムチームの一員であり、基本的に専任でなければならない」という規律があります。つまり、新規事業プロジェクトのリーダーにとって最も大事なことは、チームの一員としてプロジェクトに専念できる環境が用意されることです。

 ここで、リーン・スタートアップとアジャイル開発の関係を整理すると図3のようになります。システム開発の内製化が進んでいる企業であれば、いずれもが社内のメンバーで構成されますが、システム開発を外注している企業においては、企業のビジネス開発に携わるチームと、ITベンダーが用意するアジャイル開発チームが“車の両輪”になりプロジェクトを進めていかなければなりません。

図3:リーン・スタートアップとアジャイル開発(Scrum:スクラム)の対応関係