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  • デジタルシフトに取り組むためのソフトウェア開発の新常識

デジタルシフトにむけた企業とITベンダーの関係は“アジャイル”でこそ成立する【第4回】

梶原 稔尚(スタイルズ代表取締役)
2018年12月26日

これまで、ビジネスのデジタルシフトに向けて、リーン・スタートアップのマネジメント手法と、そのためのアジャイル開発の必要性を説明してきました。今回は、デジタルシフトを推進するための組織やリーダーシップ、ITベンダーとのパートナーシップのあり方について考えてみましょう。

 本連載の第1回では、デジタルシフトを目指す企業のためのマネジメント手法としての「リーン・スタートアップ」を紹介しました。(1)アイデアの創出、(2)素早い最小限の製品の開発、(3)顧客の反応の計測、(4)それによる軌道修正(ピボット)というサイクルを繰り返すことで、ビジネスを成功に導くという手法です。

 さらに第2回第3回では、リーン・スタートアップにおけるソフトウェア開発手法としては「アジャイル開発」が適していることを説明しました。

リーン・スタートアップが求める組織は“顧客指向”

 リーン・スタートアップは、新規ビジネスの開発を、ムダを排除しながら進めるためのマネジメント手法です。とはいえ、リーン・スタートアップだけでアイデアを生みだせるわけではありません。将来のビジネスにつながる最初のアイデアは考え出さなければなりません。

 従来の製品開発型のプロセスでは、まずは製品コンセプトを作り、そこから長い開発期間をかけて、ようやく商品として市場に投入してきました。しかし、多数の製品/サービスが市場にあふれている現在では、顧客を第一に考える“顧客志向”に則った製品開発が不可欠になっています(図1)。

図1:従来の製品開発と顧客志向による開発プロセスの違い

 顧客指向の開発プロセスに沿って新たなサービスを作り出すためには、それを生み出すチーム自体が“顧客志向”でなければなりません。すなわち、そのようなチームのメンバーをどう選び出すかが重要だということです。チームのメンバーは、新規事業を生み出すことへの強い意思、つまりアントレプレナーシップ(起業家精神)が必要なことはもちろん、さまざまな能力を求められます。

 現行の事業内容や部門構成にもよりますが、仮に、どんな構成になるのかをまとめたのが表1です。

表1:顧客志向のスタートアップチームの構成例
部門必要なスキル/能力
共通に求められる資質アントレプレナーシップ(企業家精神)。特にリーダーにおいては、責任能力、目標達成への意欲、周囲への説得能力など
マーケティング部門顧客が製品/サービスをどのように受け取っているかをデータ化できる、市場分析力、顧客行動分析力、仮説設定力。加えて、Webマーケティングとデジタルマーケティングの技術
営業部門顧客(買う側)の側に立ち「なぜ買わないのか?」を考えられる能力、多くの人に会ってインタビューできる能力
事業部門該当事業に関する知識。特に法規制・商慣習などビジネスの前提となる知識
情報システム部門企業内のデータの所在に関する知識
デザイン(UI/UX)部門ユーザ志向のUI(User Interface=デザイン)とUX(User Experience=サービス体験)を考える能力

 表1をみれば、これまでの企業内IT部門の機能と比べて、まず目に付くのが、UI(User Interface)/UX(User Experience)を主な対象にしたデザイン職の存在が挙げられます。

 デジタルシフトにおいて最も重要なことが“顧客志向”であるならば、自社の製品/サービスの顧客接点になるUI/UXは、これまで以上に重要な課題になります。社内に、デザインに携わる専門職がいなければ、新たにスタッフとして雇い入れるか、システム構築を依頼するITベンダーにUI/UXの専門家を開発チームに含めるよう依頼すべきでしょう。

 次に、Scrum開発を例に、アジャイル開発チームの組織とは、どうあるべきかを考えてみましょう。