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  • デジタルシフトに取り組むためのソフトウェア開発の新常識

デジタルシフトにむけた企業とITベンダーの関係は“アジャイル”でこそ成立する【第4回】

梶原 稔尚(スタイルズ代表取締役)
2018年12月26日

ウォーターフォール型では発注者と受注者が利益相反の関係に

 図3に示したように、プロダクトオーナーが双方のチームを率いるとはいえ、ソフトウェア開発を担当するITベンダーは一般に、発注元である企業とは別の目的を持っています。すなわち、自身の売り上げであり利益の確保です。それは「より少ない業務量(経費)で、より多くの売り上げを得る」ことで達成されます。

 発注者と受注者が利益相反の関係にあることは、ウォーターフォール型では明確です(図4)。発注者は要求事項をできる限り正確に低コストで開発させようとしますが、受注者は、リスクを最小限に抑えなければならないからです。

図4:ウォーターフォールモデルでの利益相反のイメージ

 結果、要求事項が細部まで明確になるまで見積もりを出さない、ビジネス上の成功とは関係なく要求通りに開発し、当初の要求にない変更はすべて別料金を要求する、といったことが起こるのです。

 これに対しビジネスチームの目的は、開発したソフトウェアによって生み出されるサービスを使って将来のビジネスを作り出すことです。

 ただ日本のIT部門の多くが、長年に渡りコストセンターに位置付けられ、システムの運用・保守費用をいかに削減するかに注力せざるを得なかったのではないでしょうか。システム基盤をクラウドに移行するという技術的な解決策を積極的に採用することもなく、ITベンダーに工数単価の削減を要求し続けるだけのIT部門も散見されました。

企業とITベンダーの長期的な共存関係が不可欠

 では、アジャイル開発なら発注者と受注者の相反関係は回避できるのでしょうか。

 リーン・スタートアップやアジャイル開発におけるチームの目標は、「決定した仕様に沿ったソフトウェアを、より多くの工数をかけて、より少ないコストで開発すること」ではありません。「無駄なく、より速く、より良いものを作り出す」ことこそが目標です。そこにこそ、ビジネスチームとアジャイル開発チームが一体感を持て、プロジェクトを成功に導くための鍵があると筆者は考えています。

 2018年末のIT業界は、労働者不足や働き方改革など、さまざまなニーズが顕在化したことで、ビジネス面では活況を呈しています。一方でIT業界自身の人材不足という課題もあります。人件費や人材採用コストの高騰に悩まされ、ITベンダーの側から保守契約の継続を断るという、従来では全く考えられないようなケースまでが多発しています。

 ソフトウェアは、発注者である企業と受注者であるITベンダーが、長期的な共存関係を継続できてこそ、より良いシステムが構築・運用できるはずです。デジタルシフトにおいては特に、ITベンダー側にビジネスに対する深い理解がなければ成功は望めません。

 次回は、発注者である企業と受注者であるITベンダーが共存共栄しつつデジタルシフトを成功させるためには、どのような関係を作り上げていくべきかを、契約関係を中心に考えたいと思います。

梶原 稔尚(かじわら・としひさ)

スタイルズ代表取締役。慶応義塾大学卒業後、舞台俳優を志しながら、アルバイトでプログラマーになるも、プログラムのほうが好きになり、30代前半でIT企業を設立。以来、自らエンジニアとして数多くの業務系システムの案件をこなしながら、社長業を兼任する。

「最新技術やOSS(オープンソースソフトウェア)を積極的に活用することで、IT業界の無駄をなくし、効率の良いシステム開発・運用を行う」をモットーに、日々ITソリューションの企画・開発に取り組んでいる。趣味は散歩と水泳。