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  • 地方版IoT推進ラボが取り組む課題解決プロジェクト

地域から世界へ、93地域に広がる「地方版IoT 推進ラボ」【第1回】

中村 慧(情報処理推進機構=IPA 社会基盤センター 主幹)
2018年11月2日

 各ラボは、IoTをはじめとするテクノロジーを横串に、地域課題の解決に取り組む熱意ある人物や企業が集まるプラットフォームとしての機能を持っている。北海道士幌町の「士幌町IoT推進ラボ」の取り組みが、その一例だ。

 同ラボでは、士幌高校をフィールドに、JAやベンチャー企業と連携した農業IoTの実証実験に取り組んでいる。士幌高校は、オリンピック・パラリンピックの選手村への食材提供に必要な「G-GAP」認証を取得し、地元ベンチャーの創設にも寄与した。

 徳島県美波町の「美波町IoT推進ラボ」では、南海トラフ地震対策として町が主導する避難訓練において減災IoTの実証実験を成功させ、国内だけでなく世界配信のメディアでも取り上げられた。町役場と大学、都市部から進出したサテライトオフィス企業による連携の成果だ。美波町では今回構築した通信網を活用し、基幹産業である水産業のIoTプロジェクトも進行させている。

 このように、さまざまなプレーヤーが、がっちりと噛み合った地域では、これまで越えられなかった障壁を打破し、優れたプロジェクトが続々と生み出されている。

地域の枠を超えたつながりを創出

 各地域の取り組みを加速させるための施策がいくつかある。1つは、ブランディングで、選定された地域は、「○○(地域名)IoT推進ラボ」というブランドを使用できるとともに、地域での一体感をより高めるため、各種イベントなどで活用できるオリジナルのロゴマークが付与される。

 経産省・IPAが提供する支援策は主に3つある(図2)。1つは、地域のプロジェクトの実現や企業等の発展に資するメンター(専門的知見を有する相談者)の派遣。2つ目は、取り組みや成果の情報発信による後押し。

図2:地方版IoT推進ラボ事業の全体スキーム

 そして3つ目が、地域の枠を超えた全国規模のネットワークの構築である。具体的には、全国のラボを訪問しコミュニケーションを交わしているIPAがハブになり、経産省や経済産業局と連携しながら、親和性の高い取り組みや課題を抱えたラボ間の交流の場を提供している。

 たとえば2017年12月には、関東経済産業局と試行的な場づくりを共催している。農業IoTをテーマに取り組むラボに山梨に集まってもらい、ぶどう栽培のデータ連携によってブランディングを図っている実証実験のフィールドを見学したり、それぞれの地域における課題や解決策について議論したりすることで相互の連携を強化した(写真2)。

写真2:山梨市の農業IoTの実証フィールド

 今後も、地域のキーパーソンを含めた交流の輪を継続させる仕組みづくりを経産省とともに検討している。

 IPAとしては、2018年7月の組織再編により、ITの潮流を捉え社会に発信していく機能が追加された。地方発のIoTビジネスが創出され、地域から国内外に展開できるモデルケースを発掘し発信できるよう、ハブとしての機能に磨きをかけながら、各地域とともにIoT推進ラボの取り組みを継続していきたい。

 次回からは、地域の課題解決に向けた具体的なIoTプロジェクトについて各ラボ自らが紹介していく。

中村 慧(なかむら・けい)

情報処理推進機構(IPA)社会基盤センター 主幹