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  • 地方版IoT推進ラボが取り組む課題解決プロジェクト

地域から世界へ、93地域に広がる「地方版IoT 推進ラボ」【第1回】

中村 慧(情報処理推進機構=IPA 社会基盤センター 主幹)
2018年11月2日

IoT推進コンソーシアムにおける先進的モデル創出のワーキンググループ「IoT推進ラボ」を地方に展開する「地方版IoT 推進ラボ」。2018年9月7日には第4弾が選定され、合計で93地域にまで広がっている。今回は、地方版IoT推進ラボ設置の背景とともに、そこへの期待や、具体的になり始めた成果の一端を紹介する。

 「地方版IoT 推進ラボ」は、地域におけるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)ビジネスの創出を加速するために、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が2016年に立ち上げた取り組みだ。

地域がIoTプロジェクトを提案し地域が自走する

 地方においては今、急速な人口減少・少子高齢化により、産業の縮小や若者の流出による担い手不足など、都市部以上に深刻な課題に直面している。こうした課題の解決のためには、IoTやAI(人工知能)、ビッグデータなどのデジタルテクノロジーを活用しながら、地方発の新たな価値創出や熟練した「技」の伝承などにより現状を打破することの重要性が高まっている。

 そこで、経済産業省・総務省が創設したIoT推進コンソーシアムにおける先進的モデル創出ワーキンググループ「IoT推進ラボ」を地方にも広げ、テクノロジーを活用した地域課題の解決を図ろうと2016年にスタートしたのが、地方版IoT推進ラボだ。

 2018年9月7日、第4弾として19地域が選定され、地方版IoT推進ラボは全国93地域に広がっている(図1)。

図1:地方版IoT推進ラボ選定地域の分布(丸数字は選定回)

 地方版IoT推進ラボが、なぜここまで全国を巻き込めているのか。従来の施策では、法律に基づく国の方針があり、その方針に合致した自治体の計画に対して国の交付金・補助金が配分されるという仕組みが多かった。一般的に、国の予算ありきで開始した地域の事業の多くは、予算の切れ目で途絶えてしまう傾向が高い。

 これに対し地方版IoT推進ラボは、従来とは逆の発想で地域を応援している。つまり、地域が経産省・IPAに対し、必ずしも補助金に頼らない提案を出し、その本気度に応じて国が徹底的にバックアップする。地域が自走する姿を目指しているのである。この枠組みを通じて、全国につながることにメリットを感じるという地域の声も聞く。

 地域は公募によって選定され、地方版IoT 推進ラボ3原則に基づき、厳正に審査される。審査基準となる3原則とは、(1)地域性、(2)自治体の積極性と継続性、(3)多様性と一体感。地域の特性を捉え、その課題を解決する取り組みであるか、自治体や地域の熱意あるキーパーソンによるバックアップ体制が整っているか、地場のベンチャー企業や地元大学・金融機関などの多様なプレーヤーが連携する取り組みかが確認される。

日本発のイノベーションを世界へ

 各地域が課題に掲げる重点分野は多岐にわたる。一次産業分野における高齢化や担い手不足、ものづくり分野における生産性向上や省力化、人材育成分野におけるプログラミング教育などである。

 これらの課題解決に向けた取り組が目指すのは、地方におけるデータ流通・利活用のための環境整備であり、地方発のIoT ビジネスのモデルを創出し、社会実装することである。地域課題を捉えた各ラボの活動は、他地域へ展開でき、高齢化が進む日本発の取り組みとして、将来的に同様の課題に直面する世界の国々へ発信できる可能性を秘めている。

 たとえば、石川県白山市の「白山市IoT推進ラボ」は、白山麓の「KITイノベーションハブ」を拠点として、産学官民の連携を進めている(写真1)。「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」の達成に向けた取り組みが認められ、2018年6月に「SDGs未来都市」に選定されている。

写真1:白山市IoT推進ラボの拠点「KITイノベーションハブ」