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脱“人材流出県”に向け「産業スマート化センター」を開設【佐賀県IoT推進ラボ】

北村 和人(佐賀県産業労働部産業企画課 参事)
2018年11月16日

センターを核に県内外の産学連携を促進

 産業スマート化センターを牽引するのは、本事業を受託したEWMファクトリーと、これまで佐賀県IoTラボの各種プロジェクトに参加してきた県内IT企業や大学関係者、および人材育成施設の関係者などである。実は、これら関係者が一堂に会する場として「やわらかBiz創出事業キックオフミーティング」を既に2016年9月に開催。そして2018年10月22日に、これらにさらに県内・外のサポーティングカンパニーなどを招いたセンターのオープニングセレモニーを開催した(写真3)。企業関係者を中心に200人超が参加するなど盛況だった。

写真3:佐賀県産業スマート化センターのオープニングカンファレンスの様子

 EWMファクトリーが“場”としてスマート化センターを運営し、県内IT企業らが非IT企業へのソリューションの提供役になったり、県内・外のIT企業が協働して新たなプロダクトやサービスを開発したりすることで、非IT企業の生産性向上とソリューションベンダーの成長支援の両立を目指す。

 ちなみにEWMファクトリーは東京本社のEWMジャパンのグループ企業だが、代表は佐賀県出身であり、佐賀や福島にも事業拠点を置く。佐賀では、ものづくりカフェ「こねくり家」も展開し、Pepperが出迎えたり、3DプリンターやLEGOマインドストームなどを使ったワークショップを開催したりしている。すでに、クリエイターを中心に県内IT関係者と幅広いコネクションを有しており、「自律的なコミュニティの形成」にこだわった工夫や仕掛けを期待している。

 県内のソリューションベンダーとしては、スマート農業やi-Constructionを展開するオプティムや、IBM Watsonを使ったシステム開発に取り組む木村情報技術、マーケティングにGoogleの機械学習APIを活用する福博印刷、RPA(ロボティクスプロセスオートメーション)や自然言語処理に取り組む佐賀電算センターなどが頭角を現している。西日本初のマイクロソフトイノベーションセンターの進出や、地元企業によるデジタルハリウッドスタジオの開設、佐賀大学によるデザイン思考研究所の開設など人材育成の場も充実してきている。

 そこに、県外・海外の企業にも「サポーティングカンパニー」として協力していただく。提供できるソリューションの多様化や、彼らとのパートナーシップにより県内ソリューションベンダーのビジネスの高度化につなげるためである。開設時点では、全国規模のITコンサルタントの団体であるITコーディネータ協会のほか、マイクロソフトやIBMといったIT業界の大手企業、さらには福岡のグルーヴノーツやアメリカのExploratoryといったベンチャー企業など60社ほどが登録されている。

佐賀県だからこそ、やるべきだし、やれる!

 こうした計画に対する期待感は高い。特段の情報発信はしていなかった段階から、県内や近県の企業やマスコミからの問い合わせや取材を度々、受けている。「自治体として、ここまでやるところはない」との評価も多いが、当事者としては「この規模の自治体だからこそやるべきだし、やれる」と考えている。

 コンセプトに掲げたように、規模は“つながり”で補えばいい。あるいは、「地方の中小にはITやFAの基盤がない」との声もあるが、むしろその方が組織内・外のしがらみがなく浸透しやすいことは、途上国経済の例をみても明らかだ。

 最近のテクノロジーやビジネスモデルなどをみれば、今後は、テクノロジーの民主化が進むのではないかという問題意識がある。そのためには「最初の歯車を回すきっかけ」を作るプレーヤーがおそらくは不可欠になるだろう。そうしたプレーヤーは、都市部であれば自生的に台頭する可能性があるが、地方ではそうはいかないかもしれない。

 ここに産業スマート化センターの存在意義や先進性があると考える。また、そうでなければならいとの決意を持って、他地域のモデルとなるスマート化センターを目指していきたい。

北村 和人(きたむら・かずひと)

佐賀県産業労働部産業企画課 参事