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脱“人材流出県”に向け「産業スマート化センター」を開設【佐賀県IoT推進ラボ】

北村 和人(佐賀県産業労働部産業企画課 参事)
2018年11月16日

佐賀県IoT推進ラボは2018年10月、「産業スマート化センター」を開設した。2018年度から取り組む「AI・IoT等活用推進事業」の核になる。テクノロジーとオープンイノベーション(共創)により地域産業そのものをスマート化し“人材流出県”からの脱却を図る。産業スマート化センターの取り組みを紹介する。

 佐賀県といえば、どんなイメージだろうか。佐賀平野の稲作、有明海のノリの養殖、玄界灘の透明なイカ、有田焼などの地場産業、バルーンフェスタや唐津くんちといった自然や歴史に育まれた周年行事などなど、一次産業と地場産業が中心の典型的な地方といった印象かと思う(写真1)。

写真1:佐賀インターナショナルバルーンフェスタの様子(撮影:古賀 大輔 氏)

規模のハンディをつながりで乗り越える

 その佐賀県は、実は顕著な“人材流出県”だ。その背景には、就業機会の多様性の欠如と、低い労働生産性に起因する賃金水準の格差がある。高校卒業後、就職者の4割、進学者の8割が仕事や学びの場を求めて県外に出ていく。47都道府県で、就職・進学ともに流出率がワースト5に入るのは佐賀県と奈良県だけだ。

 その解決の一策として、ITをツールなどではなく「産業」としてターゲティングし、振興策を展開する必要がある。そうした考えから、佐賀県IoT推進ラボは、2014年度から「データ&デザイン新市場創出事業」に、そして2016年度からは「やわらかBiz創出事業」に取り組んできた。「規模のハンディをつながりで乗り越える」をコンセプトに、都市部に劣る「母数」を、関係企業ら相互の「つながり」を活かすことで創発を促す“場”や“機会”を提供する。

 その結果、県内IT企業の多様な事業展開や労働生産性の大幅な改善などの成果を挙げている。特に労働生産性(事業従事者1人当たり付加価値創出額)は、2012年の494.8万円から2016年の634.3万円へと約3割上昇した。全国31位から同15位への躍進であり、福岡県(680.5万円)に遜色ない水準である。

地域産業のスマート化を図るための“刺激剤”

 だが、わずかここ数年の動きでもあることから、非IT企業への認知・浸透は不十分といわざるを得ない。そこで今回、産業スマート化センターを「オープンイノベーションのハブ」として開設し、地元企業相互の結びつきを強めるとともに、県外や海外からの知見や人材を受け入れ、地域産業高度化の“刺激剤”にすることとした。

 提供するのは「体験/相談」「人材育成」「交流/マッチング」の3つの機能だ。そのために、アプリやガジェットに触れられる「ショールーム」、個別相談に応じる「ミーティングルーム」、セミナーやピッチが開催できる「セミナールーム」を設ける。ただ、ハードウェア面では、既存の工業技術センターを用いて必要最小限の整備にし、運営体制やイベント、外部との連携などソフトウェア面を重視する。

 あわせて、「ジッカンムービー」の制作やPoC(概念実証)の取組を支援することで、県内企業に気づきを与え、アイデアの具体化を促していく計画だ。ジッカンムービーとは、佐賀の人物や企業が登場し、20年後の農業や工場、オフィスワークといった“未来”を描き出す動画である(写真2)。PoCでは、AI(人工知能)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)のビジネス利活用を検証する。そして事業化が期待できるケースについては、やわらかBiz創出事業などを通じてさらに支援していく。

写真2:サガ☆ミライの仕事と働き方ジッカンムービー(一次産業編)