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“止まらない通信網”を活用し減災事業を推進【美波町IoT推進ラボ】

鍜治 淳也(美波町役場政策推進課 主査)
2018年11月30日

美波町IoT推進ラボは、2017年4月から2018年3月にかけて「止まらない通信網を活用した命をつなぐ減災事業」を実施した。そこで構築した通信網は、地方の課題解決に向けたIoT技術を開発するためのテストベット的役割が期待され、5年間にわたり運用効果を追跡する。同事業の内容を紹介する。

 徳島県美波町は太平洋に面する人口7000人弱の町。豊かな海や里山から得られる一次産品の食材の宝庫であると同時に、アカウミガメ産卵の地として、その保護に取り組んでいることでも知られる。四国八十八か所めぐりの23番札所である薬王寺には、年間100万人が参拝に訪れる(写真1)。

写真1:アカウミガメの産卵や四国八十八か所めぐり23番札所の薬王寺などで知られる徳島県美波町

 その美波町は2012年から、全国に先駆けてサテライトオフィスの誘致に取り組んできた。サテライトオフィスを置く企業の業種・業態はさまざまだ。そうした進出企業のうち17社が町の関係者や住民参加型で商品開発に取り組んでいるのが、美波町IoT推進ラボである(写真2)。「ユーザーになり得る住民の声が商品開発に直接取り入れられため、よりユーザー目線に沿った製品が開発できる」と期待されている。

写真2:美波町IoT推進ラボの施設

メッシュ型のLPWAネットワークを構築

 サテライトオフィスに関しては近年、徳島県全体でIoT関連企業を積極的に誘致している。そこで今回は、美波町に進出したIoT関連企業と、美波町、徳島県、県内の教育機関がコンソーシアムを結成。総務省の「IoTサービス創出支援事業」として「止まらない通信網を活用した命をつなぐ減災事業」が採択された。

 “止まらない通信網”とは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)用の無縁通信用の電波(920Mhz帯)を使ったメッシュ型のLPWA(Low Power Wide Area)ネットワークのこと。既存のネットワークに頼らない情報の伝達や共有が可能な環境を構築し、災害時でも利用できるようにするのが目的である。

 美波町における最大の課題は、南海トラフ巨大地震による津波(最大波高20メートル)時に、1人でも多くの人命を守ることにある。近年、災害発生時には、携帯電話を含め通信インフラの輻輳が顕著で、通信が途絶することが問題になっている。先の東日本大震災時にも、子どもの居場所が分からず探しにでた保護者が、不幸にも被災してしまうという痛ましい事例も起こってしまった。

 南海トラフ巨大地震が発生すれば、美波町に津波の第一波が到達するまでの時間は10分以内だとされている。地震直後に通信網が利用できなくなれば、行政からの避難情報の発令や住民間の安否確認など、速やかな避難行動には重大な障害になる。そうした状況を少しでも解消するためには、既存の通信サービスが停止しても利用できる通信環境が必要になる。

 これまでの地震津波対策は、防潮堤に代表されるような公共インフラ整備、あるいは避難路の整備などハード事業の公助の部分が注目されてきた。それが東日本大震災後は、避難訓練に代表されるソフト事業の自助や共助の強化が注目されるようになった。

 本事業では、止まらない通信網に加え、携帯端末や位置情報検出デバイス(タグビーコン)へ避難指示を発令したり、携帯端末を持たない児童や高齢者などの位置情報を把握したりも可能になる。この仕組みは、緊急時だけでなく、平常時も高齢者などの見守りにも利用できる。地域の自助共助を強化し、ひいては公助の効果拡大につながることを目指す。