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「フルーツ王国山梨」を支えるIoTをLPWAも使って実証【山梨県IoT推進ラボ】

小林 弘(山梨市政策秘書課政策調整担当 副主査)
2019年1月11日

栽培データをLPWAネットワークで収集

 データに基づく栽培を実現するための仕組みとして、IoTセンサーやネットワークカメラによるデータ取得を進めている。IoTセンサーで果樹栽培における温度・湿度や、照度、土中水分量などの栽培データを、ネットワークカメラではハウス内の状況を、それぞれ取得する。

 取得したデータはWi-Fiネットワーク経由でクラウド上に保存され、各種情報をPCやスマートフォンから確認できるようになっている。栽培データは、栽培方法の見える化を可能にするだけでなく、栽培状況を見回る頻度を下げ農家の軽労化にもつながるはずだ。栽培データをJAの営農指導員も参照することで、栽培状況などを数値として共有しながらの栽培方法の指導も可能になる(図2)。

図2:山梨市アグリイノベーションLabが進める農業における栽培データ活用の概念

 ここで問題になるのが、センサーデータなどをクラウドへ送信するための各種ネットワーク機器の電源確保だ。山梨市の果樹農地は、電源を供給できないような山あいにも存在するからだ。

 そこでアグリイノベーションLabでは、Wi-Fiに加え、ソーラー電源で稼働するLPWA(Low Power Wide Area)ネットワークの技術を採用し、山あいの圃場からも温湿度や照度といった栽培データの取得を実現している。LPWAの特性を生かし、農業用センサーに加えて、河川の水位を監視するセンサーや、土砂災害を検知する傾斜センサーも併設している。

 ただし、ネットワークカメラによる映像データはLPWAネットワークでは通信できないため、Wi-Fi環境のみで利用している。

果樹の盗難や鳥獣害などへの対策としても活用していく

 データに基づく栽培に取り組むLab の主要メンバーは、JAフルーツ山梨と、山梨発のバイオベンチャーであるシナプテック、NTT東日本、そして山梨市である。

 JAフルーツ山梨がプロジェクトに協力してくれる農家を選出するほか、農業における専門知識や実証実験ための圃場の提供を担当。シナプテックはLabを取りまとめながらバイオ分野での研究開発に携わる。農業用IoT機器などの提供はNTT東日本が担い、山梨市は補助制度の実施や行政機関との連携を取りまとめている。

 プロジェクトを進めるなかで、いくつかの課題も見えてきた。1つは、農家では高齢者の割合が高いことである。IoTといった新しい仕組みを利用することに対し馴染みにくい可能性が高い。実際、実証時には協力農家から操作方法などについて、何件かの問い合わせがあった。

 この点についてNTT東日本は、農業用IoT機器を商用化する際にサポートデスクを設置した。IoT機器の運用などに関する農家からの問い合わせにも、電話一本で対応できる体制を構築している。

 もう1つの課題が、IoT機器の購入コストのハードルだ。圃場の状況を的確に捉え、どのような状況でも利用者に圃場の状況を的確に伝えるためには、一定のコストが発生する。この課題に対しては山梨市が「農業用IoT機器購入費補助金」を2018年度に創設し、農業用IoT機器を導入する農家(市民)に対し、購入費用の半額(上限30万円)を補助することにしている。

 今後は、栽培の見える化のために導入したIoT機器やLPWAネットワークを、果樹の盗難被害や鳥獣害被害などへの対策としても活用する計画を練っている。

 付加価値が高い果樹を栽培している地域では、果樹の盗難被害が頻発している。 警察などの協力も得ているものの、地域全体を24時間監視することは難しいのが現状だ。そこに既設のLPWAのネットワークに新たなセンサーを接続し、盗難抑止センサーとしての実証を研究する。

 また収穫期の作物を鳥獣害により被害を受ける農家も多い。鹿やイノシシ、カラスなどによる被害についてもIoTを活用した対策を検討していく。

小林 弘(こばやし・ひろし)

山梨市政策秘書課政策調整担当 副主査