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「フルーツ王国山梨」を支えるIoTをLPWAも使って実証【山梨県IoT推進ラボ】

小林 弘(山梨市政策秘書課政策調整担当 副主査)
2019年1月11日

2017年8月に始動した山梨県IoT推進ラボでは現在、4つのワーキンググループを設け、それぞれが地域と連携したプロジェクトを進めている。そのなかの1つが、「フルーツ王国山梨」をより活性化するための農業分野でのデータ活用に向けた「山梨市アグリイノベーションLab」である。同Labの取り組みを紹介する。

 「フルーツ王国山梨」――。このキャッチフレーズを見たり聞いたりされた方は少なくないだろう。そのキャッチフレーズの通り山梨は、桃やぶどうなどの果物では国内でも有数の生産量を誇っている。夏から秋にかけては、そんなフルーツを求めて全国から多くの観光客が山梨を訪れる。近年では、シャインマスカットの人気も手伝って、果樹園などは、さらに活気に満ちている(写真1)。

写真1:「フルーツ王国山梨」にあって人気が高まっているシャインマスカット

 しかしながら、少子高齢化に伴う労働力不足や第4次産業革命に向けた産業構造の変化への対応が必要なことは、他地域同様だ。山梨県の基幹産業である「ものづくり」分野などにおけるIoT(Internet of Things:モノのインターネット)といった先進的技術の活用を支援するために、2017年8月に始動したのが山梨県IoT推進ラボである。

 山梨県IoT推進ラボは、ものづくり産業のほか、農業と観光の2分野を対象にワーキンググループを設け、産学官金連携によりIoTプロジェクトの創出を推進している。2018年7月には4つ目のワーキンググループとなる「やまなしIoTみらいアシスト」も立ち上げた(図1)。金融機関とIoTサービスの提供企業が連携し、IoT導入を資金面などから支援し、中小企業や農家などへの先進技術の活用を促す。

図1:山梨県IoT推進ラボが推進している4つのワーキンググループ

 各ワーキンググループは市町村との連携も図りながら、IoTなどに対する企業ニーズの取り込みと支援体制を強化することで、自立化を目指している。

「勘や経験に基づく栽培」から「データに基づく栽培」へ

 今回は、4分野のなかから、「フルーツ王国山梨」を支える農業分野の取り組み例として、山梨市で2017年2月にスタートした「山梨市アグリイノベーションLab」について紹介する。

 山梨市は県内でも有数のフルーツ生産地だ。同市人口(約3万5000人)に占める第1次産業の就業者の割合は18.7%で、山梨県の7.4%や全国の4.2%を大きく上回っている。多くが桃やブドウを中心とした果樹農業だが、近年は人口減少や高齢化、若者の首都圏への流出などの影響を受け、労働力不足や技術継承の危機、収益力の低下といった課題に直面している。

 これらの課題を解決するために、山梨市アグリイノベーションLabでは、IoTを活用して果樹農業の軽労化・省力化、技術継承の簡易化、品質の均一化を図ることで、果樹農業の活性化、ひいては地域の活性化を図りたいと考えている。

 具体的には、「勘や経験に基づく栽培」から「データに基づく栽培」への移行を目指す。これまでの農業は“勘や経験”に基づく栽培が中心だった。長年培ってきた経験は、熟練農家にとって貴重な財産である一方、技術継承の困難さを併せ持っている。新規就農者にすれば、栽培ノウハウを身に付けるまでは大変な苦労を強いられる。

 そこにIoTを活用し、データによる栽培の見える化を図る。JAおよび県の果樹試験場が作成している「教科書データ(栽培時期ごとの適性温湿度等が記載された栽培基準表)」と、農家が実際に実施した栽培の結果であるデータを照らし合わせることで、新規就農者の栽培ノウハウ取得を容易にすると共に、失敗のない栽培や品質を保った栽培が可能になると期待する。