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  • 地方版IoT推進ラボが取り組む課題解決プロジェクト

高校生が先端技術で地域のスマート農業を支える【士幌町IoT推進ラボ】

杉本 忠宏(北海道士幌高等学校 教頭)
2019年2月8日

士幌町IoT推進ラボは、町立の士幌高校と連携しながら活動する地方版IoT推進ラボである。北海道十勝の中心近くに位置する士幌町は、テクノロジーを使った先進的な農業への取り組みが進んでいる。そうした先端技術と農業の基礎を学ぶために士幌高校が農業IoT機器「e-kakashi」を2016年に導入したことを契機に士幌町IoT推進ラボがスタートした。高校生が先端技術のエバンジェリストになり、地域産業を支えていくのが目標だ。高校生達の取り組みを紹介する。

 士幌町(北海道河東郡)は人口6100人強ながら、全国有数の農業生産地である。JA士幌町の生産額は2017年に400億円を超えている。海外からの輸入生産品に負けないだけのコスト削減を目指し、GPS(全地球測位システム)がガイダンスするトラクタの導入や、衛星写真による小麦の収穫時期予測、バイオガスプラントを導入した地域発電など先進的な取り組みも進んでいる(写真1)。

写真1:先進的な農業への取り組みで生産額を高めている士幌町

地元農業を題材に高校生が先進の取り組みを学ぶ

 そうした先進的な環境は、アグリカルチャー科を持つ町立高校にとっては、農作業の先端技術と基礎基本を学ぶための“現場”でもある。そこで農業IoTのため「e-kakashi」(PS ソリューションズ製)を導入し、先端技術を使った農業と、e-kakashiから得られるデータを元にした農業の基本を学ぶことを目的に、士幌町IoT推進ラボを発足させた。

 e-kakashiは、ほ場に設置するセンサーノードと、そこで集めたデータをクラウドに送信するゲートウェイからなるシステム。温度・湿度や土壌の水分、日射量などを測定できる。合わせて、実施した作業内容や発生した病気などを記録することで、専門家の“経験や勘”を数値化し、可視化することもできる(写真2)。

写真2:「e-kakashi」を操作している士幌高校の生徒の様子様子

 士幌町IoT推進ラボの最大の特徴は、やはり町立高校との連携にある。そのためラボの活画は、e-kakashiの導入から、農業における食の安全や環境保全、労働者の安全などを確保するための基準である「GAP(Good Agricultural Practice:農業生産工程管理)」認証の取得まで、地域の生産者の指標となることを配慮した計画を立て、進めている。

 士幌町役場が、IoT推進チームを運営し、士幌高校のメンバーが具体的な実証実験に取り組み、先端技術の普及に携わる。生徒に対しては、年間を通してe-kakashiで得たデータに基づき栽培特性を説明する講習会を実施している。e-kakashi関連機器の保守などは帯広市に本社を置く曽我が担当している。

 IoT推進チームは、地元の生産物を加工した地域商品の開発に高校生と一緒に取り組んでいる。地元の生産活動を支える人材育成を目指した取り組みにも高校生が寄与している。2018年には、これら良取り組みの事業化を支援しマネージメントする新会社CheerSが設立され、産官学の連携が、さらに強化されている。