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商業施設丸ごとを実証環境に新規事業の開発を後押し【大阪市IoT推進ラボ】

手嶋 耕平、松出 晶子(ソフト産業プラザTEQS)
2019年3月8日

 事業化を前提とした実証実験として2017年度は以下の8件を実施した。

(1)現在位置及び目的地検索システム「ぽけっとがいど」
(2)ロボットを活用したスタンプラリー「ロボスタンプ」
(3)「センサー付きIoTごみ容器」による効率回収の検証
(4)倉庫ロボット「Freight」を用いた大規模施設での移動制御に関する検証
(5)低速の自律型モビリティシステムおよび環境センサーに関する実証実験
(6)杖車輪型装置を用いた歩行者案内システムの機能検証
(7)移動機能を搭載したPepperアプリケーションによる館内広告業務
(8)自動床洗浄ロボット「ROBO Cleaper」による機能確認実験

 杖車輪型歩行者案内装置を検証した大阪市立大学の今津 篤志 講師は、こう語っている。

 「開発においては、ハードウェアやソフトウェアといった技術だけでなく、リアルな実験環境を整えることにもとても苦労する。ATCのように、より日常に近い条件で実証実験ができる機会が得られたことはありがたい」

 杖車輪型歩行者案内装置は、あらかじめ設定したルート通りに車輪のステアリングを操作することで、犬を散歩させるような形で目的地まで案内する装置だ。検証にはATCの商業スペースを使用した。その結果をフィードバックした装置の実証を2018年度も実施した。

写真3:杖車輪型方向案内装置の実証実験の様子

事業化を前提とした支援策のポートフォリオを設定

 AIDORエクスペリメンテーションのプロジェクトは、大阪市と、市から運営を委託されているAIDOR共同体(公益財団法人大阪市都市型産業振興センターと一般社団法人i-RooBO Network Forumの共同体)で運営している。

 大阪市都市型産業振興センターは、中小企業支援のノウハウを持つ団体だ。本プロジェクトでは販路開拓やマッチング、ビジネスモデル構築支援など主に創業支援を担当する。一方のi-RooBO Network Forumは、ロボット開発企業のネットワークを持っており、開発支援や技術サポートなどを担っている。

 実証実験に向けては、以下のような支援策を用意している。

・実証実験のフィールドの利用に係る調整
・被験者、モニターの実施手法の調整支援
・実証実験に必要な環境整備
・実証実験の方法、倫理・法制度面、安全面等に対するアドバイス
・公開の場での実証実験やイベントのプロモーション
・実証実験実施後のマッチングなどの事業化に向けたサポート
など

 IoTを使ったサービスは、技術とビジネスモデルの両輪が回転して初めて事業として前に進める。両団体が持つ創業支援ノウハウと開発企業ネットワークは、本プロジェクトの大きな強みになっているといえる。

 加えて、大阪市IoT推進ラボの拠点であるソフト産業プラザTEQSでは、実証実験支援のほかに、インキュベーション支援とビジネス創出プログラムを提供している。すなわち、ビジネスを作るところから育て検証し、ビジネスを成長させるまでを一気通貫でサポートできるように支援策のポートフォリオを組んでいるのである。ATCでの実証実験は、事業化を前提とした製品/サービスが対象だからだ。

実証実験フィールドの拡充とプロト作成支援を目指す

 ATCのように、あらゆるサービスの提供現場がそろった実証実験フィールドは全国的にも珍しく、東京からも複数者が参加した。2017年度の実証実験は8件だったが、申し込みベースでは倍以上のエントリーがあった。当初より想定していたものの、多くの企業や大学が実環境での実証実験フィールドの探索に苦心していることが実感として分かった。

 今後は、大阪府内の様々な拠点と連携し、実証実験フィールドの拡充を目指す。さらに、実証実験の前段階に当たるプロトタイプの作成も積極的にサポートするなど、事業化フェーズを細かくカバーできるようにサポートメニューを揃えていく考えである。

手嶋 耕平(てしま・こうへい)、松出 晶子(まついで・あきこ)

ソフト産業プラザTEQS(公益財団法人大阪市都市型産業振興センター)