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IoT・AIの導入支援から新しいビジネスの創出支援にシフト【茨城県IoT推進ラボ】

掛札 真平(茨城県 産業戦略部技術振興局技術革新課 係長)
2019年4月19日

 アイデア創出に向けては、公設試験研究機関である「産業技術イノベーションセンター」内に「IoT・AI等協創スペース」を新設する。そこには統括プロデューサーが定期的に訪れ、新ビジネス創出に関して助言。併せて各種研修を開催するほか、その場で生まれるアイデアをすぐ形でできるよう、VR(仮想現実)やクラウド、AIアプリケーションなどを備えた環境を整備する。IoTやAIなどに関心のある企業や個人が同じ場所に集まることで、新ビジネスの創出を促す。

 同スペースでは、顧客ニーズなどからアイデアを検証・修正し、ビジネスプランを構築するための研修を実施する。起業や新ビジネス創出などの経験が豊富な指導者であるメンターがプラン作成を助言し、プロトタイプの作成につなげる。それらのプランは、ビジネスプラン審査会でプレゼンテーションし、優れた案件を選定する。選定したプランは2020年に、資金やノウハウを支援しながら実証することも検討中だ。

 IoTやAIなどを活用できる経営者や従業員などの育成にも取り組む。アイデア創出やビジネスプラン構築のノウハウ、データの分析・活用方法などを修得できる研修を提供する。

 事業全体の取りまとめと実施は、茨城県の産業戦略部技術振興局技術革新課が担当し、産業技術イノベーションセンターがスペースの運営やセミナーなどを実施する。

40事例を集めた『IoT活用・導入事例集』が導入促進剤に

 茨城県IoT推進ラボが「次世代技術活用ビジネスイノベーション創出事業」に乗り出す背景には、2016年からの3年間をかけて、IoTの導入促進に取り組んだ結果、中小企業のIoT導入への取り組みが着実に進んできたからだ。この3年間にIoTの専門家が延べ700社以上を訪問し、90社以上に導入を支援してきた。

 その結果、製品にセンサーを取り付け保守管理サービスに取り組むといった事例も誕生した。県内40社の導入事例を『IoT活用・導入事例集』にまとめることで、これまで具体的なイメージを持てずに導入をためらっていた企業への導入促進剤にもなっている。

 環境面でも、産業技術イノベーションセンターが全国に先駆け、IoTやロボットなど検討や実証実験が可能な「模擬スマート工場」を2016年2月に整備。2018年4月には、IoTの支援機能を集約した「IoT/食品棟」も建設するなど、新たなテクノロジーに対応できる体制を強化している(写真2)。

写真2:2016年2月に整備した「模擬スマート工場」(左)と2018年4月に建設した「IoT/食品棟」

 さらに2019年1月には、ロボット革命イニシアティブ協議会が、安価で使いやすいIoTツールとして全国から集めた「スマートものづくり応援ツール」の展示会を開催。IoT導入を検討している県内中小企業とのマッチングや事例発表などを実施したところ、県内外から24の企業・団体が出展し、県内企業を中心に134人が来場した。事例発表は各回とも部屋に入りきらないほどの人気だった。

ビッグデータの分析・フィードバックにも取り組む

 茨城県IoT推進ラボの取り組みにより、早期からIoT・AIなどの導入に取り組んでいた中小企業の関心は、新ビジネスの創出に確実に移りつつある。そうしたニーズに応えるIoT・AI等協創スペースには、やる気とアイデアを持つ経営者や従業員が集まるはずだ。彼らが持つビッグデータを集積し、分析結果をフィードバックすることで新ビジネス創出をより強力に支援する。

 IoT・AI等協創スペースのネットワークには、ユニークな技術を持つ全国のIT事業者にも参加いただきたい。自社の技術を茨城県の中小企業にPRする場として講演会やセミナーを活用いただくほか、グループワークや実証実験を通して県内企業とのマッチングなども期待する。

 将来的には、県内の中小企業などから新たなビジネスが継続的に創出される土壌を醸成していく。そのためには、外部環境の変化に伴って自ら変革を起こせる経営者等の育成にも力を入れていく。

掛札 真平(かけふだ・しんぺい)

茨城県 産業戦略部技術振興局技術革新課 係長