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AI特化の「Sapporo AI Lab」を置きAI人材育成などに取り組む【札幌市IoTイノベーション推進コンソーシアム】

濱口 伸哉(札幌市 経済観光局国際経済戦略室 IT・クリエイティブ産業担当課)
2019年4月26日

都市機能と豊かな自然が共存する札幌は、1970年代から「サッポロバレー」と呼ばれIT産業が集まりだし、今では国内有数のIT産業集積地になっている。ただ1人当たり売上高が他都市に対して相対的に低かったり、東京のように展示会やセミナーが多数開催される地域に比べるとリアルな場で情報を入手する機会が少なかったりという課題もある。そうした課題を産官学が連携し、次世代の人材育成中心に活動するのが札幌市IoTイノベーション推進コンソーシアムだ。同コンソーシアムの取り組みを紹介する。

 ラーメンやジンギスカンなど、札幌にはおいしい食べ物と、雪祭りのイメージが強い。だが、それらを含め街全体に多くの魅力が広がっているのが札幌だ。都市機能と豊かな自然が共存し、四季の移ろいが明確なことから、都会でありながら各季節の美しい風景を身近に感じられる。2016年の「シティブランド・ランキング」(日経BP総合研究所調べ)では「住みたいまちNo.1」にも選ばれている。

写真1:さっぽろ雪祭りの大通り会場の風景

1970年代から「サッポロバレー」としてIT産業が集積

 一方で札幌は、1970年代には「サッポロバレー」と呼ばれIT産業が集まり出していた。80年代には全国に先駆けIT産業のための産業団地の造成に取り組むなど早くから振興策を打ったことで、今では国内有数のIT産業集積地になっている。加えて、大学などの学術機関や、その研究成果の蓄積があることも札幌の強みだ。

 その札幌におけるIT産業の事業所数は、経済センサスのデータによれば、東京特別区を除いて全国主要都市で5位、従業員数は6位だ。売上高は、リーマンショックの影響を受けたものの上昇基調にある。

 一方で、従業員1人当たりの売上高は14位であることから、他都市と比べれば、産業規模に対し受注単価が相対的に低いことが推測される。また、インターネットの利用などで各種情報の入手が容易になっているとはいえ、地方都市にあってはやはり、東京に比べ展示会やセミナーなど直接的に情報を入手する機会が少ないことは否定できない。

 産業としての継続的な成長を考えれば、より高度な技術を持つ人材により付加価値を高めることで、成長力を付けることが重要だ。そうした課題意識から2016年8月に設立されたのが「札幌市IoTイノベーション推進コンソーシアム」である。先端技術を使った新たなビジネス創出を後押しすることを目的に、大学、IT業界、支援機関、金融機関、行政機関らが参画する。

AI専門部会「Sapporo AI Lab」を立ち上げ

 札幌市IoTイノベーション推進コンソーシアムの特徴の1つは、特定のプロジェクトを達成するのではなく、地場企業のニーズや社会情勢などに合わせて、さまざまなテーマに柔軟に取り組める形を採っていることだ。その一環として、「ICT活用普及促進部会」がセミナーなどにより先端技術活用の普及・啓発に取り組んできた。

 そのなかでAI(人工知能)に関するニーズとシーズが大きかったことから2017年6月、コンソーシアム傘下のAI専門部会として立ち上げたのが「Sapporo AI Lab」である。

 Lab長には北海道大学大学院情報科学研究科の川村 秀憲 教授が就き、ステアリングメンバーが運営や事業展開を推進し、テクニカルメンバーが技術的観点から助言する。ステアリングメンバーはIT業界団体などから、テクニカルメンバーには、大学や開発系企業から人材を招き、事務局はさっぽろ産業振興財団と札幌市が担う。併せて幅広い観点を持つアドバイザリーボードも置いている。

 Sapporo AI Labが取り組むのは、札幌におけるAI関連技術の社会実装や、ビジネス創出の促進、人材の確保・育成、企業集積であり、現在のコンソーシアムにあって中心的な活動になっている。なかでもAI人材の育成に力を入れている。全国的にAI人材不足が叫ばれる中、札幌でAIを学べる機会は大学などの研究機関に限られており、地場企業が機会を得ることが難しかったからだ。