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  • 地方版IoT推進ラボが取り組む課題解決プロジェクト

中小の生産現場に「IoTリーンスタート!」の定着を図る【大阪府IoT推進ラボ】

辻野 一郎(大阪府 中小企業支援室)
2019年6月7日

 IoT診断は、大阪府内の支援機関が中心に実施している(表1)。さらにFintech分野での社会課題解決を目指す、りそな銀行、関西みらい銀行、みなと銀行のりそなグループ3行が参画していることも特徴である。

表1:IoT診断に取り組んでいる支援機関
機関名IoT診断での役割
大阪府IoT診断などの主体者
大阪商工会議所「大阪・関西IoT活用推進フォーラム」などの啓発普及事業と、府と市にまたがる分野での調整機能を担う
大阪産業局ビジネスマッチング事業などのノウハウで、ユーザー企業とIoT要素技術を持つ企業をつなぐ。オープンイノベーションやベンチャー企業を含めた新規ビジネス支援などを支援する
大阪産業技術研究所IoTデバイスの活用方法や開発などでの技術的助言を担う
りそな銀行、関西みらい銀行、みなと銀行Fintech分野でのセミナーなどの展開とIoTユーザー企業の拡大を担う

IoTデバイスを自作し見える化に取り組んだ上田製袋

 ここでIoTリーンスタート!の流れを実際の取り組み事例を元に紹介する。取り上げるのは、医療用滅菌袋バッグを製造する上田製袋である。

 上田製袋の上田 克彦 社長は、製造現場へのIoT導入に関する報道などを目にするなか、自社工場にIoTを導入すればどのように業務効率が高まるのかを具体的にイメージできずにいた。そんな折り、大阪府のホームページで「IoT推進ラボキックオフセミナー」の開催を知る。

 同セミナーに参加した上田社長は「IoT導入は早いに越したことはない。比較的安価に進めるIoTリーンスタートの道がある」ことに気づき、大阪府が利用を薦めたIoT診断を申し込んだ。中小企業診断士が客観的に導入プランを助言してくれるところに魅力を感じたためだ。

 IoT診断では、ヒアリングから課題を探り現場を見る診断士からの、ちょっとした助言にも響くものがあった。最後に、低コストな手作りでのシステム採用と社員教育に留意するという提案に上田社長は「こうして使うのか!」と手ごたえを感じたという。

 そこから上田社長は、社員を巻き込みながら社内に「IT推進委員会」を組織。IoTデバイスを自作しシーリング機に取り付け、稼働状況の見える化をテストすることから始めた(写真2)。自作のIoTデバイスは、数千円の市販マイコンボードに光センサーと無線発信機を組み合わせたものだ。

写真2:上田製袋はIoTデバイスを自作し、製造現場の見える化に取り組んだ

 IoTマッチングによりシステムインテグレーターの紹介を受け、大阪商工会議所の「スマートものづくり応援隊」の指導も活用することで、原料であるプラスチックフィルムの残量確認と生産枚数の把握を含めた稼働状況の見える化にIoTを活用できると確信するまでになった。

 実装するIoTシステムの構築では、製造機器へのIoTデバイスの設置や可視化ソフトウエアの作成はIT事業者に委託した。それも、大阪府IoT推進ラボと連携する「スマートものづくり応援隊」を通じて知る事業者であるため安心感があり、外部の視点や専門家の助言が得られるというメリットがあったと上田社長は振り返る。

 今では、すべての製袋機の稼働状況がタブレットを介して出先から確認できるようになっている。社員にもタブレットの使用が少しずつ進んでいる。「当社は進んでいる」との意識がモチベーション向上につながっているという。

先行導入企業が事例発表し後続企業を生む好循環も

 IoT診断を始めたことで、大阪府IoT推進ラボのメンバーも、企業の生産現場や経営者の考えに直接触れられるため、より現場が求める施策を考えるための材料になっている。診断を受ける企業の側も、IoT診断書への記載内容に加え、現場を訪問した中小企業診断士から、IoT活用法だけでなくカイゼンにつながる助言や経営上の配慮事項といった有益な情報を得られると好評だ。

 これまでの、4社が、IoT診断を契機にIoTの仕組みを導入した。導入に至らないまでも、テスト導入やシステムの検討、IoT以外のカイゼンへの取り組みなど、何らかの行動につながっているケースは少なくない。いずれもIoT診断後のフォローアップの中で効果を上げているようだ。

 導入企業の中では、上記の上田製袋を含む2社が、IoTリーンスタート!セミナーで事例を発表するなど、プロジェクトの成果が後続の企業を生むという事業展開にもつながっている(写真3)。

写真3:IoTリーンスタート!セミナーの様子

 IoT診断に続くIoTマッチングでは、ITベンダーやロボット関連インテグレーターの業界団体に多大な協力を仰いでいる。今後はIoT診断を基に、ものづくり企業とシステムインテグレーターが常に接点を持ち、相談や意見交換の中からIoT導入に向けたアイデアが沸き起こり、自ずと導入が加速するようなエコシステムを構築していきたい。

 加えて、IoTに続いて製造現場での期待が高まっているAI(人工知能)の活用に向けた取り組みも強化していきたい。まずは「AI/IoT推進コンソーシアム」と銘打つバーチャルなネットワークを立ち上げ、情報交換の場を提供することから始めていく。

辻野 一郎(つじの・いちろう)

大阪府 中小企業支援室